ホームステイ先に移る

 アレックスの自宅に到着し、さっそく部屋を見せてもらう。奥さんのジュディはいない。なんでもゴルフに行っているらしい。
 ベッドルームは、夫婦の寝室、子ども部屋だった部屋、それにゲストハウスと、3ベッドルームだが、玄関にもソファがあり、部屋として独立しているので、ここでも寝られそうだ。それからトイレ、ランドリー。シャワールームに、バスタブがある風呂と、風呂は2つ。それに、キッチンからは居間とダイニングが続いている。そこから外にサンルームもある。さらに驚いたことに、外にスパがある。アレックスはよく朝入るという。いわばジャグジー風呂だ。それから、男の憧れともいうべき作業ができる倉庫と車庫がある。車庫には、ゴルフカートまである。けっして豪勢というのではないが、必要にして充分。これが平屋で建っているのである。
 裏の外庭には、グレープフルーツやみかんなどの木がある。また、カリフラワーやにんにくなどが植えられている家庭菜園があり、表の玄関の方には今は冬なので花は咲いていないが、ローズガーデンもある。
 台所にカップラーメンが2個おいてある。アレックスが言うのには、ジュディが私の昼食用にとっておいてくれたというのだ。語学研修に来る日本人の学生が多く、日本人の素行の良さや、ユーモアを理解する性格が彼らは気に入っているらしかった。若い学生たちは、こうしたカップラーメンをよく食べていたのだろう。私はすでにカップラーメンとは全く離れた食生活をしているので、昼飯には昨晩の残りのカレーライスを食べようと思っているのだが、それでもジュディの配慮がうれしいではないか。
 ワイカト大学では何を学ぶつもりなのかと質問されたので、基本的には応用言語学と私は答えた。「建物がJやHとアルファベットになっているのだが、どの建物」と詳しいことを聞かれたので、「よくご存知ですね」と私が言うと、実は、彼がエアコンなどの設備を手がけたという。
 ミドルタウン規模のハミルトンではワイカト大学(The University of Waikato)の建設は大プロジェクトだったらしい。あれだけの建築物内の冷暖房施設の敷設はたしかに一大プロジェクトだったのだろう。ワイカト大学(The University of Waikato)の学生寮は、その昔、牛小屋(Cowshed)と呼ばれ、実際に牛乳を搾っていたという。さすがにワイカトらしいではないか。
 ゴルフがなんといってもご夫婦の趣味だそうだ。アレックスもこれからゴルフに出かけるというので、いわば私が留守番役を仰せつかることになった。75才と72歳のご夫婦だからなんとも元気である。
 アレックスは、自動車をバックさせて、向きを変えて家に入ってきた。何をしているのかと思ったら、車にカートをつけるためだ。カートのプラグを自動車にはめて、カートの最後尾のストップライトや方向指示器の電気がつくかどうか点検している。さらに倉庫からゴルフ用の電動車を出して、運転しながらそのカートにそのまま乗り入れる。急勾配にもかかわらず、このゴルフ用の電動車は、結構パワフルだ。
 ゴルフに行く前のアレックスに、この家に「やってはいいけないこと」(don’ts)はあるかというと、「やってはいけないこと」(don’ts)はない。自分の家と思ってくれという嬉しい言葉が返って来た。
 その昔、サンフランシスコに半年暮らしたり、あちこち旅をした私ではあるけれど、ホームステイをした経験は実は一度もない。その意味で、ホームステイが夢だった私は、この家にお世話になることができて本当に幸運だと感じながら、ゴルフ場に向かうアレックスに私は手を振った。