「これまでですな」(室戸半兵衛)<「椿三十郎」> 確かな人格をもち、深い洞察力と知恵をもって、今年こそ良い年にしたいものです

 黒澤明の映画「椿三十郎」(一九六二年)*1

 不利な立場に置かれても不正を憤りお家騒動解決のためには命をも投げだす義のある九名の若い侍たち。けれども悪を成敗するための肝心の知恵と腕っぷしは十分ではない。そこに知恵も刀も強い椿三十郎三船敏郎)が助っ人として現れ悪を懲らしめ不正を解決する。「椿三十郎」はカタルシス満載の秀作だ。さて形勢大逆転されて自尊心を傷つけられた室戸半兵衛(仲代達矢)のセリフが「これまでですな」である。


 モリカケサクラだけでも安倍政権は「これまでですな」というべき七年八カ月だった。それでも自らの反国民性や腐敗・嘘を潔く認めることはなく、カネでも統一教会でもメディアでも芸能界でも何でも使って集票し権力に居座り悪事の限りを続けた。そうした政権を恥じることなく継続すると断言して誕生した菅政権。日本学術会議の新会員任命拒否問題は当然の帰結である。続く岸田政権が、安倍・菅政権以上に、次から次へと悪法を通し、悪政を継続しているのは実に驚くべきことだ。原発再稼働。核抑止論の是認。NATOへの肩入れ。防衛費倍増。敵基地攻撃能力容認。軍事産業の礼讃と販売。マイナ保険証と裏金問題。血税大浪費の大阪関西万博。こうした悪政に呼応するように吉本興業をはじめとする芸能界とマスコミの腐敗。ジャニーズ・宝塚…。


 まさに「これまでですな」というべき社会状況に唖然とする他ない。


 「椿三十郎」は、殺陣も見事だが、実は、暴力を越えたところの価値観・哲学を表現している。城代家老夫人(入江たか子)は、「本当に良い刀はサヤに入っているものですよ」と三十郎を諭し、その三十郎が「いい刀は鞘に入っている。お前たちも鞘に入ってろよ」と若侍に忠告する。また城代家老伊藤雄之助)と夫人の人格を通じて深い洞察力と寛容精神の重要性を強調する。黒澤は刀より夫妻の人格のほうこそ上に描いているのだ。


 確かな人格をもち、深い洞察力と知恵をもって、今年こそは良い年にしたいものです。

椿三十郎

*1:俺の場合、黒澤明の「椿三十郎」を初めて観たのは海外での経験だった。初見はサンフランシスコの映画館ストランド。黒澤明の「椿三十郎」 - amamuの日記

"The Guy (Pablo Lopez) Was Dealing"

 MLBポストシーズンを迎えているが、大谷翔平投手がいないので、ほとんど見ていないのだが、たまたまアメリカン=リーグ地区シリーズ(ALDS)の第2戦を見た。

    Pablo Lopezが、ミネソタ=ツインズの先発投手をつとめ、100球以上を投げて7回まで無失点と好投した。

 降板後の試合中のインタビューが面白かったので、その概略を拙訳で紹介する。

 インタビューアーから特別上級水準の投球でした(That was a masterclass in pitch-making)。みごとに0点におさえましたね(excecuting it perfectly)と言われて、パブロ=ロペス投手は以下のような内容で英語で答えていた。

 相手打撃陣は優秀なので、油断できなかった。0点におさえられた(excecuting)のは結果。上下左右とストライクゾーンいっぱいを使って投げた(using all sides of the plate)。それが一番重要なこと(the biggest thing)。自分のチームの打撃も良かったし、あとは守備を信頼して(trying to use my defence)守備陣にまかせた(challenging them)。

 シーズンを通じて、調子を上げているのは、怪我無く(healthy)、ルーチン(routine)を大切にして準備をしているからだと思う。たまには外出して息抜きもした(have fun)。モチベーションというより、むしろ自制心と自己管理(discipline)を大切にしてきたからだと思う。

 (中略)

 今日の試合は楽しかった(Happy flight)。

 解説者も、野球はチームによる試合だと、パブロ=ロペスがdiscipline (自制心) と述べたことにえらく感激し、試合では masterclass の投球であり、またインタビューでは masterclass の回答だと高く評価した。そもそもファンだったけれど、こんなインタビューを聞かされたら、ファンにならないわけにはいかないと付け足していた。

   パブロ=ロペスは27歳。ベネズエラ出身。両親は医師で、医師をめざしていたときもあったが、野球選手になったいう経歴の持ち主。

 MLBにはよい選手が少なくないようだ。

 以下は、MLBの記事から。

 "The guy was dealing"のdealingの意味するところは、"in the zone", "lights out"ということ。投手が打者と試合を支配して素晴らしい投球をしたという俗語的に使われる野球用語。カードゲームのディーラーから来ているらしい。

www.mlb.com

大谷翔平投手、偉大な記録を残しつつ、故障から今シーズンを終える

 右脇腹の斜筋の怪我から大谷翔平選手が今シーズンを終えることを報じているガーディアン紙。

www.theguardian.com

 大谷翔平投手は、右ひじの靱帯損傷から今シーズンの投手としてのプレーをすでにあきらめ、さらに右脇腹の斜筋の怪我から今シーズンのプレーから退くことになったと、各紙が報じている。あくまでも二刀流継続希望の強い大谷翔平投手にとっては、右ひじの手術については、すぐ取りかかるようだ。

 以下、今シーズンの大谷翔平投手の活躍を伝えるフルカウント。

full-count.jp

 以下、松井秀喜氏のコメント。まだHR王が決まっているわけではないが…。

full-count.jp

 

ロサンゼルス・ドジャーズは大谷翔平投手の移籍先としてひとつの有力な選択肢になるだろう

 大谷翔平投手は、この冬にフリーエージェント自由契約選手)になるという。

 個人的意見に過ぎないが、単なるひとりの大谷翔平ファンとしては、大谷翔平投手の移籍先は、ロサンゼルス・ドジャーズがよいと思う。

 野球はド素人だし、大谷翔平投手がMLBでプレーする前は、ほとんど野球を見ることはなかった。そんな一ファンの言うことは全く当てにならないが、以下思いついたことを書いてみた。

 第一に、大谷翔平投手の要求は、二刀流ができるチームで勝利したいということが最大の要求だと思う。ドジャーズは、この点で、もちろん二刀流に理解があるだけでなく*1大谷翔平投手の二刀流を生かせる環境として良好である。それは、ドジャーズポストシーズンを狙える伝統的な強豪チームであるからだ。総合力のある伝統的なチームだから、大谷翔平投手も、休みをとりながら、エンゼルスのように酷使されることもなく、自己のパフォーマンスを充実させることに集中できるだろう。今回の怪我はエンゼルスのチームとしての総合力、怪我人続出のチーム事情が遠因であることは否定できない。この点でドジャーズは、大谷翔平投手にとって、よりよい環境になると言える。

 この辺のことは、以下のロサンゼルスタイムズ紙でも触れられている。

www.latimes.com

 第二に、これは第一と関連するのだが、ポストシーズンに勝ち進める強豪チームでなければならない。大谷翔平投手は、当然のことだが、勝利にこだわっている。そのこだわりは人一倍強いと言えるだろう。ポストシーズンに勝ち進むためには、強豪チームでなければならない。そして、ドジャーズは、その点で、ふさわしいチームのひとつだ。

 第三に、大谷翔平投手は練習が好きだということ。練習ができる気候は重要だ。その点、ロサンゼルスは、一年を通じて長く練習ができる気候風土といえるだろう。ボストンやニューヨークは寒いだろう。練習のできる気候という点は、たしか大谷選手がエンゼルスを選んだひとつの理由にもなっていたのではないか。この気候風土という意味では、ドジャーズはほぼ同じ環境といえるだろう。ということで、気候風土が第一。

 第四に、これは全く個人的な見解になるが、人種差別問題に対して前向きな態度をもっているチームがよいと思う。

 では、どのチームがより人種差別意識のすくないチームなのか。この問いに簡単に答えられるはずもないが、アメリカ合州国の政治的風土は、地域によって、また各州によって、かなり異なっている。少なくとも、まず、アメリカ合州国の各州の中で、カリフォルニアは、他の州(失礼を省みずいえば例えばテキサス州フロリダ州*2ミズーリ州*3など)と比べるならば、独断と偏見になってしまうが、比較的自由主義的な政治風土があると思う。

 大谷翔平投手は言うまでもなく人格高潔な選手。比較的自由で進歩的なカリフォルニア州は有力な選択肢になると思う。

 さらに、ロサンゼルスドジャーズは、人種差別を支持しない歴史をつくってきている。たとえば、1947年に、肌の色の障壁を越えて、ジャッキー・ロビンソンと契約したのがドジャーズだ。また今やこれはどのチームでもそうだが、ドジャーズも、大谷翔平投手が憧れは今日の試合では止めましょうと言及したムーキー・ベッツ(Mookie Betts)選手をはじめ、人種混合チームである。沖縄は那覇市生まれ、サンディエゴ育ちのロバーツ監督(Dave Roberts)は、父親がアフリカ系アメリカ人、母親は日本人であり、チームを数度ワールドシリーズに率いた監督。また、ドジャーズは、ロバーツ監督もベッツ選手らも、2020年に、BLM (Black Lives Matter) 運動との団結を示したことは記憶にあたらしい*4。もちろん、こうしたことはドジャーズだけではない。

 たとえば、ボストンレッドソックス(the Boston Red Sox)は、1962年に、アフリカ系アメリカ人であるエディー・ロビンソンを監督として迎えた最初のチームである。ボガーツ(Bogaerts)、デヴァース(Devers)、ヴァードューゴ―(Verdugo)など、多種多様な選手もいる。2020年には、BLMを支持して、フェンウェイパークグリーンモンスターに大きなバナーを掲げた。他のチームでも、こうした動きはあるのだろうが、少なくとも、ドジャーズは、この点でも合格点ではないかと、個人的に思う。

 

 ということで、大谷翔平投手にとって、ロサンゼルス・ドジャーズは、ひとつの選択肢になると思うのだが、どうだろうか。

*1:二刀流に理解のあったエンゼルスのマドン元監督のもとで二刀流ができたという点でエンゼルス入団は、第一段階としては、よい環境だったと言えるが、エンゼルスポストシーズン進出という点で難点があった。

*2:テキサス州フロリダ州がどのような政治風土であるのかは、たとえば、アメリカ合州国の禁書圧力・言論圧力 - amamuの日記などを参照のこと。

*3:たとえば、ミズーリ州については、ミズーリ州への旅に関する全米黒人地位向上団体からのアドバイス - amamuの日記を参照のこと。

*4:たとえば、以下、参照。Dodgers speak out against racial injustice by releasing 'In This Together' video - ABC7 Los Angeles

「神宮外苑再開発に「全員がショックを受けた」イコモスが樹木伐採や高層ビル建築の問題点を語る」(ハフポスト日本版)

 イコモス(International Council on Monuments and Sites(ICOMOS)とは、ユネスコ世界遺産に関する諮問委員会。世界約130カ国が参加する国際NGO

 そのイコモスによって、急遽、東京の神宮外苑再開発問題で都市の森林の樹木伐採問題にたいして「ヘリテージアラート」)が出された。「ヘリテージアラート」とは、危機的状況に置かれた文化遺産にたいする警告である。神宮外苑のような、たいへん大きな価値あるものが失われようとしていると警告するのが「ヘリテージアラート」だから、これはたいへん恥ずかしい限りだ。

 以下、「神宮外苑再開発に「全員がショックを受けた」イコモスが樹木伐採や高層ビル建築の問題点を語る」というハフポスト日本版記事。

 三井不動産明治神宮日本スポーツ振興センター伊藤忠商事らは、自分たちの利益やごく一部の人たちのためでなく、ひろく公共、多くの市民のためのSDGsを本気でやる気があるのか、それともおためごかしのためのインチキな大義名分なのか、問われている。

 以下、YouTube を是非みてほしい。

www.huffingtonpost.jp

 イコモスの、エリザベス・ブラベック氏(アマースト大学教授)が、東京の神宮外苑再開発にたいする「ヘリテージアラート」を説明する。

 日本イコノス国内委員の石川幹子氏も参加されている。

【karaoke】The Beatles の "Ticket to Ride" (1965)

 「涙の乗車券」と適確に訳されたビートルズのヒット曲 ”Ticket to Ride”。

Ticket to Ride (1965)

 言うまでもないことだが、The Beatles の各メンバーは労働者階級出身で、ユーモアも中身も思想もある、ライブバンドからレコーディングバンドへと成長いちじるしかった革新的で創造的なバンド。自分が子どもの頃、ラジオではお馴染みだったから、レコードを買う必要もなかった。それほど毎日かかっていた。

 「涙の乗車券」は、ジョン・レノンの唄声にポール・マッカートニーがハーモニーをつけている1965年のヒット曲。

 今回、カラオケで歌ってみて、"do right by me"のフレーズを自分で歌ってみて、本記事を書く気になった。

www.bing.com

 

 以下、拙訳。

オイラ きっと落ち込むだろうな

たぶん 今日だろうな

オイラが惚れたあの子が行っちまうんだ

オイラにしたら涙の 乗車券を手にしてね

涙の乗車券を手にして行っちまう

涙の乗車券を手にして行っちまう

でも 彼女のほうはへっちゃらなんだよ

 

彼女、オイラと暮らしてると

気が滅入るって言ってた 

ひどくない

てのは オイラがいると

好きにできないって

オイラにしたら涙の  乗車券を手にしてね

涙の乗車券を手にして行っちまう

涙の乗車券を手にして行っちまう

でも 彼女のほうはへっちゃらんなんだ

 

なんで 彼女が乗りに乗って生き生きしてるのかわからない

彼女こそ よく考えて考え直すべきだ

彼女こそ オイラに向き合ってオイラをまっとうに扱うべきなんだ

サヨナラを言い終えるまえに

彼女こそ よく考えて考え直すべきだ

彼女こそ オイラに向き合ってオイラをまっとうに扱うべきなんだ

 

オイラ きっと落ち込むだろうな

たぶん 今日だろうな

オイラが惚れたあの子が行っちまうんだ

オイラにしたら涙の 乗車券を手にしてね

涙の乗車券を手にして行っちまう

涙の乗車券を手にして行っちまう

でも 彼女のほうはへっちゃらんなんだ

なんで彼女が乗りに乗って生き生きしてるのかわからない

彼女こそ よく考えて考え直すべきだ

彼女こそ オイラに向き合ってオイラをまっとうに扱うべきなんだ

サヨナラを言い終えるまえに

彼女こそ よく考えて考え直すべきだ

彼女こそ オイラに向き合ってオイラをまっとうに扱うべきなんだ

 

彼女、オイラと暮らしてると

気が滅入るって言ってた 

ひどくない

てのは オイラがいると

好きにできないって

オイラにしたら涙の 乗車券を手にしてね

涙の乗車券を手にして行っちゃう

涙の乗車券を手にして行っちゃう

でも 彼女のほうはへっちゃらんなんだよ


あん子は へのかっぱ

あん子は へのかっぱ

あん子は へのかっぱ

 

 I think I'm gonna be sad(オイラきっと落ち込むだろうな)の gonna は もちろんgoing to。

 drive me mad は、drive me crazy。"the girl that's driving me mad"は、「オイラをくるわせた女の子」という意。

 "She's got a ticke to ride" は、「彼女は乗車券を手に入れた」という意味だけなのだが、タイトルの「涙の乗車券」の名訳に敬意を表して、言葉をくわえて意訳しておいた。

 "but she don't care" は、俺は落ち込んでるのに、「でも、彼女は気にしてない」といういわば「落ち」というべきもので、"she don't care" はより文法的に品よく言うならば、"she doesn't care."というべきところ。「へのかっぱ」はすでに死語かもしれないが、「あん子は、へのかっぱ」くらいに訳してよいのかもしれない。

 "I don't know why she's riding so high" は、getting high ということ。電車ということもあって、ridingを使ったのだろう。高揚感を言っているわけだが、「乗りに乗って」を入れ込んで訳してみた。

 "She oughta think twice"の "think twice" は、Bob Dylan の"Don't think twice, it's all right"の歌詞にあるように、「二度考える」「考え直す」「よく考える」ということ。oughta は ought to。

 "She oughta do right by me" の "do right by someone" は、今回実際に歌ってみて、最も驚いた一行で、"do someone right"ということ。よく使われる "do me right"、"treat me right" は頻度数が高く、もちろんこれまで何度も聞いたことがあったが、"do right by me"は、聞いたことがなかった。頻度数はかなり少ないと思うが、辞書で調べてみると、"do right by someone" はエントリーとして辞書に載っている。長年英語を学んできたけれど、不覚にも "do right by me" は知らなかった。

 "think twice"も"do right by me"も、いずれもきわめて簡潔で簡易な英語なのだが、そのニュアンスを日本語で言うとなるとむずかしい。今回、拙訳が長くなってしまったのはそのためだ。ジョンが一番早口で歌っていると言うのに。もっとよい日本語を思いついて改訂したいところ。

 "She said that living with me is bring her down" も "She would never be free when I was around" も、こんなひどいことを彼女に言われたら、まったく立つ瀬がありませんね。だからその直後に歌われる "yeah"を「ひどくない」と意訳しておいた。

 "Before she gets through saying goodbye"の "through"は、「終わり」「終わる」というニュアンスがあり、「さよならと言い終えるまえに」ということになる。

 最後に、韻を踏んでいるペアを紹介しておこう。

 ということで、「涙の乗車券」、楽しんでください。

today / away

sad / mad

me / free

high / goodbye