「東京五輪延期説、IOC異例の火消し 感染症は4年前も 新型肺炎・コロナウイルス 」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年3月4日 17時58分)から。

 

新型コロナウイルスの感染拡大が東京五輪に影を落とすなか、3日に始まった国際オリンピック委員会IOC)理事会で、トーマス・バッハ会長は異例の対応で「延期」「中止」説の火消しに努めた。
 横一列に並んだテレビカメラ約15台が一斉に向けられるなか、バッハ会長は、ときに拳を握りながら言った。「東京五輪の成功に変わらぬ自信を持っている」。IOC理事会初日の3日午後、東京大会を予定通り7月24日から実施する方針を強調した。理事会期間中に自らメディアの前に姿を見せて声明を公表する、極めて異例の事態だった。
 IOC最古参のディック・パウンド委員が「五輪開催可否の判断期限は5月末」と発言したことなどを受け、理事会には通常の約3倍の約90人の報道陣が詰めかけていた。さらにこの日、橋本聖子五輪担当相が参議院予算委員会で、開催都市契約の解釈によっては今年中なら延期可能との認識を示したことで、欧米メディアが延期の可能性を一斉に報じた。IOC会長は理事会終了後に記者会見をするのが通例だが、バッハ氏はそれを待たず、この局面で世界に発信する必要があると判断した模様だ。
 世界保健機関(WHO)はこの日、「判断は時期尚早」と発表し、足並みをそろえた。アダムス広報部長もこの日の理事会後の会見で、「興味がわく物語を提供したい気持ちはあるけれど、信頼できる機関が『予定通り進めて』という見解を示している。それ以外は全て臆測だ」と言った。(ローザンヌ=遠田寛生)
リオ五輪前はジカ熱 緊急事態宣言も
 感染症は過去の五輪でも問題になってきた。2016年リオデジャネイロ五輪前には、新生児の小頭症との関連が指摘されるジカウイルス感染症(ジカ熱)がブラジルで広がった。同国保健省が15年11月に緊急事態宣言を出し、世界保健機関(WHO)は16年2月に緊急事態を宣言した。

 4年前も、バッハ会長は今回と同じ3月初旬のIOC理事会で「リオの大会組織委員会が地元当局やWHOと協力しながら対応し、WHOが『問題ない』と判断していることに満足している」と沈静化に努めた。感染源の蚊が発生しやすい水たまりが施設周辺にないか調査しているほか、選手村には網戸を張り、空調施設を整える対策を取った。
 実際には、当時リオ大会組織委にいたIOC職員が「五輪時は気温が下がり、感染源の蚊が減るのは想定できていた」と言う通り、ゴルフやテニスの有力選手の一部でジカ熱を理由に欠場する選手が出たが、大会は混乱なく行われた。
 主に開催国での広がりだった4年前と違い、今回の新型コロナウイルスは世界に広がりつつある。
 各地を転戦するトップ選手には、ウイルスを広めないよう活動を自粛する動きがある。アラブ首長国連邦UAE)のアブダビなどで2月下旬に開催された自転車ロードレースのUAEツアーは、出場チームのスタッフ2人が感染していることがわかり、打ち切りに。感染者が出ていないチームでも、一部は潜伏期間を考慮して次戦へ転戦せず、活動を停止した。
 欧州でも大勢の観客が集まるサッカーの国内リーグ戦が延期されるなどの影響が出ている。日本国内が五輪開催までに落ち着いたとしても、他地域で感染が拡大しているようなら、IOCや組織委などは対応を迫られることになる。
 10年バンクーバー冬季五輪の前には新型インフルエンザが世界的に流行し、バンクーバー地域保健所が各国オリンピック委員会の選手、役員に「予防接種を受けることを強く勧める」と要望を出した。当時はすでにワクチンの接種が可能だったが、今回の新型コロナウイルスではワクチンが開発されていない。(忠鉢信一ローザンヌ=稲垣康介)