「五輪の開催、組織委に募る危機感 引けない政府の事情」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/12/3 6:30)から。

五輪のコロナ対策と課題
 来夏に延期された東京五輪パラリンピック新型コロナウイルス対策について、政府、東京都、大会組織委員会の調整会議が2日開かれ、中間整理がまとまった。選手村(東京都中央区晴海)に滞在する選手らに4~5日間隔でPCR検査か抗原検査を実施し、陽性反応が出た場合は「偽陽性」を防ぐため直ちに再検査を行う方針を示した。

 来春のテスト大会を経て来年6月に具体策を固める。観客数を減らすかどうかは来春までに判断する。

 コロナ対策や大会延期に伴う総額3千億円規模の追加経費の分担については、関係者によると、1千億円規模を見込むコロナ対策費は主に国が、2千億円規模とされる延期に伴う人件費や施設管理費は主に都と組織委が負担する方向だ。組織委の森喜朗会長、東京都の小池百合子知事、橋本聖子五輪相が週内にも会談する方向で調整している。

医療現場「今夏予定していた協力は無理」
 新型コロナ対策には医師や看護師らが不可欠だが、最近の感染拡大で医療現場からは「五輪どころではない」との声もあがる。

 大会では複数の民間、都立病院などを「指定病院」とし、入院が必要な選手を受け入れてもらう計画だ。だが、「第3波」と言われる感染拡大で都内の入院患者は1600人を超えた。

 ある都立病院の新型コロナ専用病棟で働く看護師は「現在の状況が続けば、五輪なんて開けるわけがない」と訴える。重症患者や介護が必要な患者を日々受け入れるが、医療用マスクの使用枚数はいまだに制限されている。精神的に追い詰められた看護師が泣きながら手を洗い続けるという話も耳にした。

 「人員にゆとりがないなかで患者はやってくる。例年、年末になると退職する人がおり、残ったスタッフは春にはボロボロだろう。五輪に使うお金があるなら、医療スタッフの増員にまわしてもらいたい」

 最寄り駅から競技会場までの間に置く救護所などへの協力も求められていた都医師会。当初は熱中症対策が最大の課題だったが、新型コロナへの対応も迫られる。ある幹部は「今夏に予定していた大会と同様の対応は無理。努力したら手が届く形でなければ、協力できない」と話した。

 こうした現場の声に、大会組織委員会も危機感を募らせる。

 組織委の延期前の計画では、9都道県の43競技会場や選手村に130カ所超の医務室を設ける予定だ。各会場に選手用と観客用の医務室が設けられ、それぞれ医師に常駐してもらう。観客用は収容人数1万人あたり医師2人、看護師4人を配置。1万人増えるごとに医師1人、看護師2人を増員し、応急対応するボランティアも置くため、1万人以上の医療スタッフが必要になる計算だ。

 ある組織委幹部は「一部の病院から、このままの感染状況が続けば医師らを派遣するのは厳しいとの声が上がっている」と明かす。組織委の武藤敏郎事務総長は2日の会見で「医療機関が大変苦労されているという実態がある。医療機関にお願いするにあたっては、経済・財政状態に配慮することが必要」と話し、都などと協力する意向を示した。(荻原千明、斉藤佑介)

不安な大会関係者 強気崩さぬ首相
 「先のことなんて、だれにもわからない。これから第4波、第5波があるかもしれない」

 五輪開催の旗を振る菅義偉首相の周辺からも、こんな懸念の声が漏れる。収束の見通しは立たず、酒を出す飲食店などに営業時間の短縮を要請する動きなどが全国に広がりつつある。

 まして、五輪は33競技で1万人以上の選手が集う巨大イベント。大会関係者は「世界中で感染が拡大する中で準備するのはつらい。大会開催に向けた機運は、全く高まってこない」と漏らす。年が明けると、各国で出場選手などを決める予選を開けるかが問われるようになる。

 それでも、首相は強気の構えを崩していない。11月25日の参院予算委員会では「人類がウイルスに打ち勝った証しとして開催する」と強調した。

 政府は観客を入れる前提で準備を進めており、入場制限の緩和に向けたプロ野球公式戦での実証実験などを行っている。官邸幹部は「クラスター(感染者集団)が発生していない。観客を入れることに深刻さはない」と話す。ワクチン開発が進展しているとの情報も後押しし、大会組織委の幹部からは「状況は徐々に好転するだろう」との楽観論も出ている。

 来年10月には衆院議員が任期満了を迎える。首相にとっては、五輪・パラリンピック後の衆院解散は有力な選択肢で、「最大の政権浮揚策」とも位置づけられる五輪開催は引けないという事情もある。政府関係者は「首相が『撃ち方やめ』と言うまで、やれることは何でもやる」と話した。(前田大輔、小野太郎)

東京五輪パラリンピックの今後の流れ
12月下旬 大会経費の予算発表

2021年

3月   テストイベント開始

  25日 五輪聖火リレー開始

春まで  観客を入れるか最終判断

6月めど 各種マニュアル整備

7月23日 五輪開幕

8月24日 パラ開幕

(荻原千明、斉藤佑介 前田大輔、小野太郎)