マオリ語にイギリス語からの借用語が多いわけ

 マオリの名前だが、マオリ固有の名前は、基本的にジェンダーに関係ないという。ただ、イギリス語から借用した名前がマオリには結構あって、これは多少男女の区別をするらしい。
 男性の名前では、ヘミ(Hēmi)はジェームズ(James)だというし、ハキ(Haki)はジャック(Jack)だという。マーカ(Māka)は、マーク(Mark)で、ミカエル(Mikaere)は、マイケル(Michael)だ。ピリピ(Piripi)は、フィリップ(Phillip)で、ピタ(Pita)は、ピーター(Peter)だ。パオラ(Paora)は、ポール(Paul)で、ホーリ(Hōri)は、ジョージ(Geroge)。ティモティ(Timoti)は、ティモシー(Timothy)で、ティキ(Tiki)は、ディック(Dick)。教科書には男性の名前だけでも30ほど掲載されている。
 女性の名前も、ヘーニ(Hēni)が、ジェーン(Jane)で、マータ(Māta)が、マーサ(Martha)という具合。ハキ(Haki)は、すでに紹介したように、男の名前だとジャックだが、女性の名前だと、ジャッキー(Jackie)になるという。教科書に出てきた奴で、全くわからなかったのが、イリハーペティ(Irihāpeti)。これは、エリザベス(Elizabeth)だという。やはり女性の名前も22ほど教科書に掲載されている。
 前にも触れたように、マオリ語には、イギリス語からの借用語がある。電子メールのことをいうイーメーラ(īmēra)などもそうだ。
 イギリス語からの借用語はわが日本語にも少なくない。「さじ」なども、「スプーン」に取って代わられそうなご時世である。これによって「さじ加減」などの表現も確実に死語になっていくのだろう。つまり、言語間には、政治的・経済的・文化的力関係がはたらくのは当然のことながら、日本語に「さじ」というコトバがありながら、自らイギリス語に取って代えようとするほど、日本人は誇り低き民族なのである。
 そもそもマオリ語は、文字をもたなかったし、マオリの文化から見れば、いわゆる西洋文化がどっと押し寄せてきただろうから、それをよしとするかどうかは別にして、イギリス語からの借用語が垣間見えるのは、ある意味では納得がいく。けれど、民族固有の名前がイギリス語からの借用語でイギリス語風というのはどうなのだろうか。
 これじゃ、香港がイギリスの直轄的植民地であった頃の私の知人の中国人がイギリス語の名前を名乗っていたのと同じようなものではないか。
 この点について講師のヘミにメールで聞いてみた。
 ヘミによると、さまざまな理由から、イギリス語からの外来語がマオリ語には多いという。
 そのひとつの理由は、キリスト教の布教・伝道から始まっていると彼は答えてくれた。キリスト教布教以来、マオリ語にないコトバが大量に持ち込まれ訳されたというわけだ。マオリの名前も同様で、キリスト教と一緒に、マシュー、ジョンなどが持ち込まれたという。マオリ語の名前を持っていても、ヨーロッパ人が主流の農場で仕事を得るために、便宜上、イギリス語風の名前を名乗ることもめずらしくなかったようだ。彼の父親がそうだったという。
 キリスト教化と、英語化は、同じような意味合いだろうから、これは全くの私の推測に過ぎないけれど、マオリキリスト教化とともに、英語名も入り込んできたのだろう。