一番大事なことが抜ける今の日本

 この23歳の運転士は、11ヶ月の運転歴の間に、オーバーランなどを理由に、数回処分され、「再教育」を受けていたようだ。
 日頃のJRの教育で、「私たちの仕事で一番大事なことはお客さんの生命と安全です」「多少の遅れは大丈夫。問題ありません」という一番肝心な教育がされていたのだろうか。
 そうした教育がなされていれば、今回のような大惨事は起こらなかっただろう。

 大変悲しいことだけれど、実は私はこの点について、大いなる疑いをもっている。
 今の日本は、一番肝心なことを教えない社会になってしまっていると、日頃より私は観察しているからだ。
 今の日本は、一番大事なことを教えずに、競争があるからと、忙しさだけをあおっている。また形を整えることばかりを教えている。つまり中味がない社会になってしまっている。ようするに哲学不在だ。トップが現場の声を聞かず、上からはっぱをかけたり、下らぬ命令ばかりしている。それどころか、一番仕事ができる有能でまともな労働者をいじめていることだってあると私は観察している。
 この運転士は、40メートルのオーバーランを8メートルであったと嘘を言い、車掌と口裏を合わせたと報道されている。これは全くの私の推測にすぎないが、この運転士は、事故が起こった際に、乗客の命という一番肝心で、まさに考えないといけないことを考えていたのではなくて、上司のことや、「再教育」や、もしかしたら自分が仕事からはずされるかもしれないというような自分のことを考えていたのではないだろうか。彼がそう考えざるをえないような「教育」や「再教育」をJR西日本はしていたのではないだろうか。これでは、事故が起こるのは当たり前だ。
 もしそうであるならば、今回の大惨事は、日本社会のゆがみによる人災と言えるだろう。
 投資効率から、現場付近のATSという自動列車停止装置は旧式のもののままだったという。
 先頭車両で暴走運転してマンションに突っ込んだ運転士も含めて、今回亡くなった多くの方たちは、今日の日本の哲学不在的状況、とりわけ競争ばかりを考えている無責任なトップの犠牲者である。