長部日出雄さんの「天才監督木下恵介」を面白く読んだ

天才監督木下恵介

 ここ数週間、これまで観てこれなかった日本の古典的映画を観るようにしているのだが、それは、ひとつには、こうした古い映画をレンタルビデオ屋さんから手軽に借りられるようになったことや、リマスター版が相次いで出されるようになったことが大きい。
 それと、より大きな理由としては、昨今の日本の政治状況を見る中で、日本人という民族はこれほど忘れやすい民族だったのか、これほど薄っぺらい民族だったのかという暗澹たる気持ちにさせられ、私をして、戦後の原点ともいえる古典的映画に向かわせているのだが、山田洋次監督の作品や黒澤明監督の作品とともに、遅ればせながら、木下監督の作品が素晴らしいと発見できたことが、なんといっても大きな収穫だった。
 それで、木下恵介監督について興味を覚え、まず長部日出雄さんの「天才監督木下恵介」を読んでみた。かなり分厚い本だが、大変面白く読んだ。
 山田太一氏が、築地本願寺での告別式の弔辞で、次のように語っているが、今回わたしが日本の古典映画に向かわせたものと照合すると思うので山田太一氏の発言を引用しておきたい。

 日本の社会はある時期から、木下作品を自然に受けとめることができにくい世界に入ってしまったのではないでしょうか。しかし、人間の弱さ、その弱さが持つ美しさ、運命や宿命への畏怖、社会の理不尽に対する怒り、そうしたものにいつまでも日本人が無関心でいられるはずがありません。ある時、木下作品の一作一作がみるみる燦然と輝きはじめ、今まで目を向けなかったことをいぶかしむような時代がきっとまた来ると思っています。(山田太一

 もちろんこ本書は映画に関する本だが、戦後日本の歴史を知る意味でも私にとっては学ぶことの多い労作だった。一読をお薦めする。