以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月6日20時49分)から。
丸山穂高氏
北方領土を戦争で取り戻すことを肯定するかのような発言をした丸山穂高衆院議員(日本維新の会から除名)に対し、衆院は6日、全会一致で「糾弾決議」をした。国会の重い意思として事実上の辞職勧告を突きつけたが、強制力はなく法律上の「懲罰」にも当たらない。本人は議員辞職を否定しており、元島民らの反発や不信感は収まっていない。丸山議員の糾弾決議、全会一致で可決「自ら進退判断を」
「院として全会一致で糾弾決議ができたことは意味がある。丸山氏には重く受け止めてもらいたい」。自民党の森山裕国会対策委員長は決議可決後、決議の意義を記者団に強調した。立憲民主党の辻元清美国対委員長は「全会一致の糾弾決議。将棋で言えば丸山氏はもう詰んだ。速やかに辞職をするしか逃げ道はない」。かつて丸山氏が所属した維新の松井一郎代表(大阪市長)も「衆院が国会議員の資質がないという意思を示したのだから、早く身を処した方がいい」と6日の会見で語った。
ただ決議は丸山氏の議員の身分を左右するものではない。丸山氏は、3日に高市早苗議運委員長に提出した弁明書で決議などについて「院において長年積み重ねてきた基準や先例から明らかに逸脱する」と批判。議員辞職を拒否している。
そもそも、国会決議は政治的責任の追及や謝意などの意思を内外に示すもので、憲法に明記された衆院の内閣不信任決議などを除き法的拘束力はない。表題にも規定はなく、「糾弾」を盛り込んだ決議は2012年に参院に提出、可決された尖閣諸島に不法上陸した香港の活動家らに対するものが1件だけあるだけだ。
国会議員の懲罰として憲法は「除名」を定める。本会議で3分の2以上の賛成があれば議員は身分を失う。ただ戦後の例は1950年代に衆参で1件ずつあるだけで、各党とも適用に慎重だ。自民も「議員の身分に関することは慎重に取り扱う必要がある」との立場。野党と足並みをそろえるため自公が提出した譴責(けんせき)決議案から文言を強めた際も、「自ら進退について判断する」と留保を入れた。
与野党妥協の産物といえる糾弾決議だが、責任追及の手段として乱発される懸念もある。自民党の小泉進次郎衆院議員は本会議採決時に退席。「みんなで糾弾するということが腑(ふ)に落ちなかった。出処進退は議員一人ひとりが判断すべきこと。辞めなかったとき、どうするかを判断するのは選挙だ」と記者団に語った。
北方四島出身者、反発収まらず
「早く(議員を)辞めて」「決議は当然」――。北海道の北方四島出身者らは決議を複雑な思いで受け止めた。色丹島北部の斜古丹出身で北海道根室市に住む得能宏さん(85)は「(丸山議員は)真剣に受けとめ、一刻も早く議員辞職してほしい」と話した。
得能さんは11歳で旧ソ連軍の侵攻に遭った。島の学校でソ連の子どもと一緒に学んだ後、樺太(現サハリン)の収容所での餓死寸前の日々を乗り切り、2年後に日本に戻った。
そうした体験から返還運動に携わる一方、四島のロシア人住民との交流にも力を入れてきた。ロシアの国境警備隊の基地にあり、訪問が不可能だったかつての自宅の場所も、交流で親しくなった島の住民の尽力で訪問できるようになった。
自身も交流事業で色丹島へ7日に向かう。それだけに四島との交流を危うくする丸山議員の発言には「腹が立ってならない」。
国後島で丸山議員を「戦争はすべきでない」と諭した訪問団の大塚小彌太元団長(90)=札幌市=は訪問後、表立った発言をしていない。関係者によると、今年中に四島交流でふたたび国後島に行く予定で、交流に影響が出ないことを願っているという。
丸山議員に抗議文を送付した、元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟(脇紀美夫理事長)の幹部は糾弾決議について「国会で判断し、(辞職を求める)意思表示するのは当然だ」と話した。(大野正美、戸谷明裕)