以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月11日22時39分)から。
老後の蓄えとして「30年間で2千万円が必要」――。金融庁の審議会がまとめた報告書に対し、街では不安や戸惑いの声が聞かれた。一方で、「年金制度が崩壊するのは目に見えている」と資産運用を意識する人もいた。
老後の生活費、いくら必要?研究所に試算してもらうと…
「今から2千万円なんて、とうてい無理」。11日夜、JR有楽町駅前で帰路に就いていた埼玉県川口市の男性会社員(53)はあきらめ顔だった。年収は約550万円。独身で、賃貸マンションに一人で暮らす。90代と80代の両親は離れた実家に住む。「将来には介護も必要だろうに、数百万円しか蓄えがない」定年後に収入がなくなれば、首都圏以外に引っ越しせざるを得ない、と心配する。「国まかせではどうしようもない、ということがよく分かった。自分で自分を守らなければ……」と険しい表情で語った。
JR新橋駅前にいた東京都西東京市の男性会社員(61)も、「(老後に)2千万円必要だというのはふざけた話だ」と憤る。再雇用で月収56万円。「将来の保証がないのだとしたら、年金を払いたくなくなるのも仕方ないのでは。自分は家のローンを払い終わっているからまだいい方だが、所得の低い人はどうすればいいんだ」と話した。
一方、駅前で知人と待ち合わせをしていた男性会社員(25)=東京都品川区=は「2千万円を蓄えなきゃいけない上に、年金を払わなきゃいけないってのは、少し嫌だな」と漏らした。
ただ少子高齢化で、もらえる年金が減るのは当然で、あてにはできないと感じてはいる。メーカー勤めで月収は30万円前後。将来的に2千万円を蓄えるのは「きつい」と考えるが、将来への備えが必要だというのも理解できる。1年ほど前から外貨建ての保険に入り、月3万円ずつ積み立てているという。
資産運用をアドバイスする「ファイナンシャルスタンダード」(東京都千代田区)には、金融庁の報告書公表以降、普段の5倍ほどの相談が寄せられている。これまで3割程度だった30~40代からの問い合わせが、8割を占めるという。同社は「給料が右肩上がりになりそうにないなか、働く現役世代が『2千万円』という数字にどきっとしたのでは」と見る。
11日夕、資産運用の相談で訪れていた横浜市の女性会社員(50)は「年金制度が崩壊するのは目に見えている。2千万では安心できない」と口にする。
現在の年収は600万~700万円ほど。65歳で定年退職した後も、年に数回は海外旅行できるような生活水準を保ちたいという。独身で、将来的には70代の親の介護費用も心配だ。「生活水準ってなかなか落とせない。少なくとも3千万円は蓄えたい」
同社社長でファイナンシャルプランナーの福田猛さん(40)は、今回の報告書公表を「資産運用を考える、いいきっかけかもしれない」と捉える。「ゼロ金利政策で利息がほとんど付かないのに、預金を銀行口座で眠らせているのは日本くらい。人口減少や高齢化を踏まえて、一人ひとりがどう生きるか考えなければならない」と言う。(鶴信吾、関口佳代子)