「「2千万円問題」報告受け取り拒否 審議会は何のため?」

f:id:amamu:20051228113059j:plain
以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月14日16時30分)から。

経済の「モヤモヤ」解説
 老後の資産形成を呼びかける金融庁の審議会の報告書。老後の生活費は「2千万円不足する」との内容に、「年金では暮らせない」「老後は自己責任か」との声が上がりました。参院選を前に批判を避けたい政府・与党は火消しに躍起となり、麻生太郎金融担当相が報告書を受け取らない異例の事態に。内容が気に入らないなら答申や報告書を受け取らない、ということになれば、審議会の存在意義にも関わります。審議会とはどういう存在なのか、改めて考えました。

       ◇

「諮問」は儀式のように
 大臣が有識者を集めた審議会での議論を依頼する「諮問」。いったいどうやって行われるのか。過去の例を振り返ってみると――。

 2017年11月16日。金融庁の大会議室に、テーブルが楕円(だえん)を描くように並べられた。森信親長官(当時)以下、金融庁幹部が勢ぞろいし、民間出身の委員たちもずらっと席に着いた。金融審議会の総会が始まったのだ。

 およそ半分の議事が進んだところで、事務方が会議室のドアを開けると、麻生金融担当相が入ってきた。麻生氏は、テーブル中央に座って議事進行をしていた審議会の岩原紳作会長(当時、早大大学院教授)の隣に移動し、委員にあいさつを述べた後、1枚の紙を取り出した。

 「金融庁設置法第7条第1項第1号により、下記のとおり諮問する――」

 諮問事項が書かれた紙を読み上げると、向かい合った岩原氏に紙を手渡し、頭を下げた。

 麻生氏は定期的に総会に現れ、その時々の金融行政のテーマについての調査・審議を、こうやって金融審議会に依頼する。この儀式のような流れが「諮問」だ。

 諮問を終えると、麻生氏はすぐに部屋を出た。その後、議事が再開した。

 麻生氏の読み上げの中に入っていた「金融庁設置法」は、1998年に大蔵省(現・財務省)から分離して発足した金融監督庁を、金融庁として内閣府の外局に置くと明記した法律だ。

 さらに同法で設置が規定されたのが、金融犯罪の調査に強大な権限を有する証券取引等監視委員会と、国内金融の重要事項などの調査・審議をする金融審議会だ。

 金融審議会は、内閣総理大臣財務大臣または金融庁長官の諮問に応じて活動する。委員には内閣総理大臣から辞令が出る。

 審議の対象は銀行、市場、監査法人、仮想通貨と幅広い。金融庁が検討する法改正案のたたき台も議論される重要な審議会だ。日本銀行の政策委員会に金利について意見を述べることもできる。

受け取り拒否「ひとごとと思えない」
 今回の「2千万円問題」で焦点になった報告書「高齢社会における資産形成・管理」も、行政側からの諮問に対応して、調査・審議されたものだ。

 審議会のもとに置かれた作業部会「市場ワーキング・グループ(WG)」に集められた学識経験者や金融関係者ら民間委員21人が、18年秋から12回にわたる議論を経てとりまとめた。通例では今後、総会で原案通り了承され、諮問した麻生氏に届けられる。

 報告書は、公的年金だけでは長寿時代に生活費が不足する現実をみすえ、中長期的な資産形成を勧める内容だった。だが、野党から「公的年金だけでは暮らしていけない、あとは自己責任でやれということか」との批判が強まると、参院選への影響を恐れる与党から、報告書の内容を「ずさん」などと批判する声が高まった。

 当初は報告書の中身を容認していた麻生氏も、姿勢を一変。審議会のもとに置かれたWGの議論の成果を「政府の政策と全然違う」として、受け取りを拒否する異例の事態に発展した。

 政府に頼まれ、時間を割いて議論に参加したのに、肝心の報告書を受け取ってもらえない。異例の事態に、WGのメンバーが困惑する様子が報じられた。

(後略)

(榊原謙、栗林史子)