「2千万円問題、審議会委員たち言葉少な 実名アンケート」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月19日21時8分)から。

 金融審議会の報告書を麻生太郎金融相が受け取らないことについて、委員21人の受け止めを尋ねるアンケートを、朝日新聞社は実施した。審議会会合では「素晴らしい成果」などと評価の声が委員から相次いでいたが、アンケートには「誤解を生む恐れがある」などと半数が回答を拒絶した。

 アンケートは1問。金融審議会の作業部会の報告書「高齢社会における資産形成・管理」を麻生氏が受け取らないと決めた判断について、「理解できる」「理解できない」「その他」の三者択一で選んでもらい、自由記述欄で理由や意見を尋ねた。13日に本人や勤務先の大学や企業に送り、17日夕までの回答協力を求めた。

 委員は大学教授、エコノミスト、金融機関関係者、弁護士ら計21人。19日までに返答があった11人のうち、10人は「今回は遠慮したい」「報道でさらなる誤解を生む恐れがある」「取材は受けられない」など回答を断る返事だった。質問票に答えたのは1人のみ。連絡がつかないか、何らかの返事を締め切りまでに得られない委員も10人いた。

 アンケートは実名を前提としたが、辞退した委員の一人は19日、匿名で取材に応じた。麻生氏の受け取り拒否について「大問題だ。気に入らないから受け取らないとなると、多様で自由な議論ができなくなり、政府のあり方として非常によくない。民主主義の根幹が問われる問題」と話した。

 辞退した別の委員も、麻生氏が受け取り拒否を決めた11日は朝日新聞の取材に応じ、「議論の前提の『2千万円』に関心が集まってしまった。今回のことで思考停止になってしまうとすれば残念だ」と答えていた。ほかの複数の委員も他メディアの取材に応じたが、与野党の批判が過熱し、当事者がモノを言いにくい状況が広がっている。

 実名で唯一回答を得られたのは読売新聞東京本社の林田晃雄・論説副委員長。選択肢は「その他」を選び、「報告書の取り扱いは麻生大臣が判断されるべきものと考えます。ただ、国民の資産形成のあり方について長期にわたり議論した結果が、今後の政策の検討にまったく生かされないとすれば、残念です」とした。

原案段階は好意的意見相次ぐ
 「素晴らしいものができた」(黒沼悦郎早大教授)

「よくぞここまでまとめられた。非常にポジティブ、国民的な議論を喚起しようとしている」(企業統治推進機構の佃秀昭社長)

 報告書原案ができた5月22日の審議会は、委員から好意的な意見が相次いだ。

 老後の資産形成に関する議論は昨年9月に始まり、計12回。「霞が関ではあまりない取り組み」(幹部)として、年金や住宅など他省庁の協力が必要な話題も議論した。高齢者に寄り添うサービスを金融機関に促すため、省庁を超えた連携が必要との判断からだ。

 報告書は多くの人の関心を集めた一方で、一部記述の修正を迫られた。公的年金の水準について、原案は「中長期的に実質的な低下が見込まれている」と記したが、6月3日の最終案では「今後調整されていくことが見込まれている」などと変更。ただ、3日の時点でも「(高齢化が進む)今の世の流れの中でタイムリーだ」(日本製鉄の宮本勝弘副社長)と評価する声が出ていた。

 受け取り拒否を巡り、与野党の対立は激化。14日の衆院財務金融委員会で、金融庁は「金融審議会の報告書で、大臣が受け取らなかったものは(これまでに)ない」と答弁し、委員は「内閣全体でも初のケースと思われ、重く認識している」と麻生氏の姿勢を問うた。

 立命館大政策科学部の森道哉教授は「政府の意向によって、審議会の委員が意見を出しづらい状況にあるとすれば、審議会のシステム自体が形骸化しかねない。様々な意見が政策に反映されなければ、国民の不利益にもつながりかねない」と話す。(山口博敬、高橋克典

業界関係者「説明が下手」 考え方は評価
 日本証券業協会鈴木茂晴会長(前大和証券グループ本社会長)は19日の会見で、金融審議会の報告書について、「老後の備えという考え方は正しい。立派な報告書だ」と評価した。老後に2千万円が不足と表現したことは「問題だ」と指摘し、「(不足でなく)『ゆとり部分』とすれば良かった」と述べた。

 日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEO(最高経営責任者)も同日の会見で、報告書を「間違った内容ではない」としたうえで「説明の仕方が、若干言葉が悪いけれど、下手だったのかなという印象だ」とする一方で、「こういう事実を突きつけられ、国民一人一人が(老後資産について)考えていくべきだ」と語った。

金融審議会の報告書をめぐる動き
2016年4月19日 麻生太郎金融相が金融審議会に諮問

 19年5月22日 報告書「高齢社会における資産形成・管理」の原案を公表

   6月3日 原案を一部修正した報告書を決定

     7日 麻生金融相が「(家計が5万円の)赤字と表現したのは不適切」と釈明

     10日 安倍晋三首相が「2千万円不足」の表記について「不正確であり誤解を与える」と答弁

     11日 麻生金融相が「正式な報告書としては受け取らない」と表明

     18日 「世間に著しい誤解や不安を与え、政府の政策スタンスとも異なる」とする答弁書閣議決定