「参院選目前、「老後2千万円」怒る与党 年金にトラウマ」

f:id:amamu:20051228113059j:plain
以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月12日7時0分)から。

 老後に向けた資産形成を呼びかける金融庁の審議会の報告書を、麻生太郎金融担当相が11日、受け取らないと決めた。本格的な高齢社会を迎え、必要な蓄えの額は多くの人の関心事。報告書の内容は政治的に打ち消されたが、年金の行方など退職後のお金を巡る有権者の不安は消えないままだ。

 自民党二階俊博幹事長は11日午前、党本部に記者団を急きょ集め、金融庁に報告書の撤回を含め厳重抗議したことを明らかにした。「国民に誤解を与えるだけではなく、むしろ不安を招いておって、大変これを憂慮しております」

老後の生活費、いくら必要?研究所に試算してもらうと…
 背景には、この報告書問題が参院選に影響することへの懸念がある。二階氏は「我々選挙を控えておるわけですから、そうした方々に迷惑を許すようなことのないように注意したい」と説明。麻生氏が報告書を受け取らない考えを表明したのは、この直後だった。

 通常国会の会期末は26日に迫る。政権は参院選での勝利を第一に、今国会で野党との対決ムードを回避する戦略に腐心してきた。内閣提出法案を最小限に絞り、2019年度予算成立後は、激しい論戦に発展しかねない予算委員会の開催に応じない姿勢を貫く。

 その国会最終盤で報告書問題が噴き出し、政権側は火消しに躍起になった。

 公明党山口那津男代表は11日の記者会見で「与党の枢要な人に(金融庁から)事前に何の説明もなかったのではないか。猛省を促したい」と語気を荒らげた。自民党岸田文雄政調会長は「(報告書が)公になること自体、大きな問題ではないか」と記者団に不満をぶつけた。

 こうも政権が神経をとがらせるのは、年金問題のトラウマがあるからだ。第1次安倍政権だった07年の国会は年金記録のずさんな管理問題が焦点化。参院選で大敗を喫し、首相退陣とその後の政権交代につながった。自民党幹部は「最悪のタイミングだ」と嘆く。

 野党側は攻勢を強め、立憲民主党枝野幸男代表は11日の党会合で「選挙前では都合が悪いから受け取らない、撤回しろという話は、ちょっとあぜんとせざるを得ない。国民に説明しない、ごまかすということがいよいよ顕著になってきた」とし、引き続き予算委の開催を求める考えを示した。一方、自民党森山裕国会対策委員長は同日の会見で「報告書そのものがなくなった」と述べ、応じない考えだ。

 ただ、いったん明らかになった問題が参院選で争点化するのは避けられない。安倍晋三首相に近い自民党議員の一人は「報告書を受け取らないとか、逃げているような対応ではダメだ。逃げている印象をもたれると、参院選にどんな影響が出るかわからない」と懸念する。(明楽麻子)

金融庁幹部「準備不足、力量不足だった」
ログイン前の続き 「資産形成を前向きに考えてほしいというのが報告書の趣旨だったが、議論の前提の『2千万円』に関心が集まってしまった。今回のことで思考停止になってしまうとすれば残念だ」

 審議会の作業部会のメンバーの一人、みずほ総合研究所の高田創氏は11日、そう話した。

 報告書をまとめたメンバーは、エコノミスト、年金や金融に詳しい大学教授、金融機関の経営者ら。16年4月、家計の資産形成のための検討の諮問を受けた。

 家計の預貯金を投資に振り向けることは金融機関にとっても関心事。議論の過程では、老後のお金の現状を整理し、厚生労働省の担当者が出席して公的年金について説明した。委員からは、年金の実情をわかりやすく伝えることや資産形成を通じて老後の備えの必要性を訴える声が相次いだ。「役所の枠を超えたメッセージ性が大事だ」(池尾和人立正大教授)との声も出た。

 ただ、大きな反発を招き、金融庁幹部は「これだけ国民のおしかりを受け、準備不足、力量不足だった点は反省したい」と話す。

 作業部会がまとめた報告書は、審議会の総会を経て麻生氏に提出される予定だった。麻生氏の「不受理」宣言で、扱いは宙に浮く形になる。金融庁は、審議会のメンバーらと今後の取り扱い方を相談する。(山口博敬、新宅あゆみ)