「座礁後も変わらぬ絆に涙 モーリシャス政府で働く日本人」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/8/23 12:30)から。

 インド洋の島国モーリシャスの沖合で日本企業の大型貨物船が座礁し、重油が大量に流出してから、2週間余りが過ぎた。この島で暮らす日本人は約60人。その中には政府の中枢で働いている男性もいる。世界有数の美しい海で日本の船が起こした事故を、どんな思いで受け止めているのか。

 モーリシャスは火山活動でできた島国で、主な産業は観光などのサービス業だ。観光を支えるのが白い砂浜と青い海、そして島をぐるりと囲むサンゴ礁。ヨーロッパの富裕層が好んでバカンスに訪れ、その美しさから「インド洋の貴婦人」とも呼ばれる。

 2017年からこの島で暮らす市川建介さん(60)は、モーリシャスのインフラ省アドバイザーとしてインフラ整備や防災の指導をしている。きっかけは、開発コンサルタントとして世界各地の事業に携わっていた11年、モーリシャスの案件を担当したことだった。もともとは斜面の地すべり対策の専門家だが、モーリシャスでは国際協力機構(JICA)の海岸保全・再生と地すべり対策のプロジェクトリーダーとして、サンゴ礁保全などを統括する役割を担った。

 プロジェクトは15年に終わったが、市川さんはインフラの担当大臣から、島に残るよう引き留められた。観光スポットなどに向かう道路が崩壊し、その修繕が大きな課題となっていたためだった。島に経験豊富な技術者が不足していた中で、市川さんは自らの技術を伝えようと定住することを決めた。

新型コロナ、そして「最悪の惨事」
 モーリシャスでは、新型コロナウイルスにより3月20日に外出禁止を伴う「ロックダウン」が発令された。外国人観光客の受け入れが止まり、ビーチからは人影が消えた。4月中旬以降、新規感染者はほとんど出ていないが、観光客をいつから再び受け入れるかについては、まだ決まっていない。

 そこに追い打ちをかけるようにして起きたのが、今回の貨物船の座礁事故だった。流出した油がサンゴ礁マングローブ林などの生態系に及び、「最悪の惨事」をもたらしている。

 環境への被害に加えて、市川さんは風評被害についても心配する。「油の被害を受けたのは一部の地域ですが、油まみれの海岸がニュースに繰り返し流されることで、モーリシャス全体が汚染されたかのような印象を与えています。今後モーリシャスを訪れたいと思う旅行者が減りかねません」と危惧する。

 座礁した船は岡山県にある長鋪(ながしき)汽船が所有し、商船三井がチャーターしたものだった。市川さんはモーリシャス政府の一員として事故の対応に当たる中、日本人として申し訳なさや後ろめたさを感じてきたという。「観光が目玉のこの国で、自分たちの宝物である海に油をまかれたわけです。普通は怒りますよね」

(後略)

(坂本進)