安倍政権の7年8カ月(2) 内田樹氏

以下、以下のブログ(2020年08月29日 14:13)より続き。
https://blogos.com/article/481319/

安倍政権の7年8カ月
内田樹

独立戦争のときのアメリカも、ナポレオン時代のフランスも、レーニンソ連も、国民が国家の運命とおのれ個人の運命がリンクしていると信じているとき、その国は強い。

逆に、国民の多くが「私の個人的努力の目標は自己利益の増大であり、私の個人的努力が国力増大に資するような直接的な回路は存在しない」という白けた気分でいるときに、国全体のパフォーマンスは下がる。日本はいまそういう国になった。なぜか、「国家主義」を標榜する安倍政権下で日本国民が失ったのは「私」と「国」との一体感だったのである。

 7年8カ月の安倍政権を眺めて来た国民が知ったのは、政治家であれ、官僚であれ、財界人であれ、メディアのトップであれ、彼らの行動は「国民全体の福利」をめざすものではないということであった。彼らは自分の党派、自分の支持者、自分の縁故者、自分自身のためにその権力を活用する。そのことを私たちは知らされ、受け入れてきた。「権力を自己利益のために使うことができるということが、『権力を持っている』ということである」というシニカルな事大主義をいま人々は「リアリズム」と呼んでいる。

「勝ったものは正しかったから勝ったのだ。多数を制した党派は真理を語ったので多数を制したのだ」という現実肯定の思考停止のうちに多くの日本人は埋没している。そして、それが劇的な国力衰微の理由だったと私は思う。

 実際に安倍政権が通した重要法案の多くは安保法制も、特定秘密保護法も、テロ等準備罪も、世論調査では国民の過半は「今国会で強行採決すべきではない」という意思表示をした。だが、政権はこれを強行し、支持率はいったんは落ちたものの、すぐに回復した。つまり、有権者たちは「この政権は私たちが反対しても何の影響も受けないほどに強大な権力を有している。