安倍政権の7年8カ月(3) 内田樹氏

以下、以下のブログ(2020年08月29日 14:13)より続き。
https://blogos.com/article/481319/

安倍政権の7年8カ月
内田樹

そうである以上、服従すべきだ」という腰砕けな推論をし、それをして「リアリズム」と呼んできたのである。

 閉じられた政治的空間の中であれば、安倍政権はこの「リアリズム」を心理的基礎にして、あと数年あるいはそれ以上にわたって盤石の体制を続けられたかも知れない。しかし、この政治的リアリズムは新型コロナ・ウィルスによるパンデミックという「リアル」にはまったく通用しなかった。ウィルスの危険を訴え、適切な対応措置を求める国民についてなら、これを恫喝し、懐柔し、必要とあらばデータを隠蔽改竄すれば黙らせることができるが、ウィルスにはそのようなマヌーヴァーは通用しない。

 先般、世界23か国の人々に、コロナ対策に際して自国指導者の評価を求めたアンケートが行われた。日本政府の対応を「高く評価した」人は日本国民の5%にとどまった。世界平均は40%。中国は86%、ベトナムは82%、ニュージーランドは67%、死者数世界最多の米国でさえトランプを「高く評価する」国民は32%いた。

 この数字は感染を効果的に抑制し得たかどうかと直接相関しない。例えば、死者数の少なさだけを強調して、日本政府は「感染抑制に成功した」といつまでも言い張ることだってしようと思えばできたのである。けれども、日本国民は安倍政権が感染抑制についてはまったく無力だったということを知っていた。

 国難的時局において必要なのは、指導者が国民全体の福利と健康と安全をめざしていると「信じさせる」ことである。けれども、日本国民は、そんなことを信じなかった。「日本の指導層は自己利益のためだけに行動していて、自分の支持者にしか便益をもたらさない」ということをずっと前から「知っていた」からである。だから、内閣支持者たちでさえ、政権は「自分たちのために」何かよきことをしてくれることはあっても、全国民のために何かよきことをするだろうということを信じなかった。