以下、朝日新聞デジタル版(2020/11/26 5:00)から。
首相の国会答弁が虚偽だったら、審議の前提は崩れ、立法府の行政に対するチェックも働かなくなる。政治への信頼を揺るがす深刻な事態だというのに、菅首相には、その危機感も反省もみられない。
きのうの衆参両院の予算委員会の集中審議で焦点となったのが、安倍前政権下の「桜を見る会」の前夜祭をめぐる問題だ。
安倍前首相は一貫して費用の補填(ほてん)を強く否定してきたが、直近の5年間で、会費との差額計約916万円を負担していたことが明らかになった。政治資金規正法違反(不記載)などの疑いがもたれている。
野党は安倍氏による国会での説明を求めるとともに、真相解明の必要性を繰り返し問いただした。しかし、菅氏は人ごとのような答弁に終始した。
いわく「国会の件は、国会でお決めになること」
いわく「捜査機関の活動内容にかかわる事柄なので、お答えは控える」
いわく「前首相の関係団体の行事であり、私の立場でお答えするものではない」
立法府と行政府の信頼関係にかかわる重大事だという問題意識は少しも感じられない。
前政権で官房長官だった菅氏は、国会や記者会見で、安倍氏と同じ説明を重ねてきた。しかし、「安倍氏に確認して答えた」「首相と平仄(ひょうそく)を合わせた」と語るだけ。結果的にしろ、自らもウソを語ったことへの反省や忸怩(じくじ)たる思いはないのか。
森友学園をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、衆院調査局が一昨日、安倍前政権が2年間に計139回、事実と異なる国会答弁をしていたことを明らかにした。国会での説明を軽んじ、ごまかしもいとわない悪(あ)しき体質が、菅政権にも継承されているというほかない。
コロナ対策をめぐる答弁では、閣僚任せで、自らが率先して国民に訴えかけようという姿勢が感じられなかった。
政府が見直しを決めた「Go To トラベル」をめぐっては、感染拡大の原因となった証拠はない、地域経済の下支えになっているなどと、専らその意義を強調した。これでは、政府が現在の感染状況をどの程度深刻に受け止め、対応の軸足をどこに置いているのか、国民にはわかりにくい。
そもそも、菅氏はコロナ対応をめぐって一度も記者会見を開いていない。8回行った安倍氏とは対照的だ。首相官邸で立ち止まって、記者団に一方的にコメントすることはあるが、質疑には応じない。国民との対話から逃げるような姿勢では、口癖の「国民から信頼される政府」は実現しないだろう。