「狙いかわす片山氏、盾は「訴訟案件」 森友対応が参考に」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月2日07時24分)から。

 1日に論戦が始まった衆院予算委員会。野党側は、「口利き疑惑」が報じられた片山さつき地方創生相と、公文書改ざん問題など財務省で不祥事が続発しながら留任した麻生太郎財務相に照準を合わせた。だが今国会も、説明責任を果たそうとしない安倍政権の姿勢は引き継がれた。

 「大臣が訴えられているのではなく、大臣が相手を訴えているのだから、正当性をどんどん主張すればいい。訴訟中だから話せないというのは説明逃れだ」

 1日午後の衆院予算委。立憲民主党逢坂誠二氏が片山氏に迫ると、委員会室から「そうだ!」とヤジが飛んだ。

 片山氏は週刊文春で、税務調査を受けた企業経営者が2015年に国税庁への働きかけを依頼し、見返りとして片山氏の私設秘書の税理士に100万円を支払った、と報じられた。さらに片山氏と企業経営者の電話の音声データとして「私はちょっと高いんじゃないかと(税理士に)言った」との片山氏の発言や、「片山氏が国税局長に電話した」との事務所関係者の証言も報じている。

 「違法な口利きをしたこともなければ、100万円を受け取ったこともない」「事実と異なるところが随所にある」。片山氏は1日の質疑で次々と報道の内容を否定し、税理士については「私どもの事務所で秘書として契約したことはない」、国税局長への電話も「そういう事実はない」と強調した。

 だが、企業経営者と会った日付や、その後面会したかを逢坂氏がただすと、片山氏は発行元の文芸春秋を提訴したことを理由に「訴訟上の問題なので控えさせていただく」と具体的な説明を避けた。

 この日、片山氏と並んで質問を浴びたのが、麻生氏だ。森友学園の公文書改ざんや前事務次官のセクハラ問題といった一連の財務省の不祥事がありながら、内閣改造財務相に留任した。

 「自分の能力が適材か否かについて、自分で判断するほどうぬぼれておりません。私自身としては、後世の歴史家の判断を待たねばならないと思います」

 適材適所で留任したと思うかと問われ、麻生氏がそう答弁すると、委員会室からは失笑が漏れた。質問した立憲の長妻昭代表代行は「とぼけた答弁だ。本当に責任の重さを感じているのか」とあきれたが、麻生氏はその後も「全力で職務を全うしたい」と繰り返した。安倍晋三首相も「再発防止策を講じ、組織を立て直していかなければならない。麻生財務相にはその先頭に立って責任を果たしていただきたい」と述べた。

 立憲が片山氏と麻生氏を狙い撃ちにしたのは、2人が政権の「急所」になるとみているからだ。

 片山氏は現内閣で唯一の女性閣僚で、知名度も高い。つまずけば政権に大きなダメージを与えられるとみる。首相と盟友関係にある麻生氏の留任は、報道各社の世論調査で評価しない声が多い。

 だが正面から答弁しない2人に対し、野党側の追及は決定打を欠いた。7時間にわたる質疑を終えた片山氏は国会内で記者団に「説明は十分できたか」と問われ、「聞いた方のご判断でどうぞ。たくさんお答えした」。笑みを浮かべてエレベーターに乗り込んだ。
「司法を都合よく利用した」との批判

 片山氏について、首相官邸幹部は「早々に提訴に踏み切ったことが功を奏した。『訴訟案件』との武器さえあれば、怖いものはない」と評価する。2016年には口利きに絡む金銭授受疑惑で甘利明経済再生相が野党から追及され、辞任に追い込まれた。「訴訟」を理由に野党側の批判をかわし、そうした事態を避けたいとの思惑がにじむ。

 実際、片山氏は臨時国会が始まる2日前、名誉毀損(きそん)として文芸春秋を相手取った訴訟を起こした。その後は記者会見でも「裁判の場を通じて明らかにしていきたい」と説明を回避している。

 政権が参考にしたのは、森友学園問題をめぐる対応だ。財務省の公文書改ざんを主導した元財務省理財局長の佐川宣寿氏は、今年3月の証人喚問で「刑事訴追の恐れ」を理由に証言拒否を連発した。一連の不祥事の動機や経緯など核心部分を国会で明らかにすることはなく、結果的に野党側の追及をかわすことになった。

 佐川氏は大阪地検特捜部から刑事訴追されるか否かという、本人の意思と関係ない事情もあった。これに対し、片山氏は自ら出版社を訴えた。司法を都合よく利用したとの批判はすでに出ており、希望の党松沢成文代表は「『今、法廷闘争中なので余計なことはしゃべれません』は逃げの常套(じょうとう)文句」と強く批判する。

 安倍政権が国会での説明責任を軽視するような姿勢を示すのは今回だけではない。首相や閣僚が国会質問に正面から答えない姿勢は、「朝ご飯を食べましたか」という質問に、パンは食べたけど米のご飯は食べていないので「食べていない」と答えるのと同じ「ご飯論法」と批判された。森友問題では財務省が改ざん後の文書を国会に提出し、自民党出身の大島理森衆院議長も7月の談話で「法律の制定や行政監視における立法府の判断を誤らせるおそれがある。議院内閣制の基本的な前提を揺るがす」と指摘した。