「「着実に全体主義への階段上る」 学術会議前会長の危惧」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/10/20 5:00)から。

山極寿一・日本学術会議前会長(科学季評)
 日本学術会議が推薦した新会員105人のうち、6人が菅義偉首相から任命されず、その理由がはっきりしないことが問題となっている。学問の自由への国家権力の不当な介入と非難する意見があるが、私はそもそも民主主義の問題だと思う。

 民主主義とは、どんな小さな意見も見逃さず、全体の調和と合意を図り、誰もが納得するような結論を導き出すことだ。初めから意見が一致していたら議論の必要はない。多様な考えや意見があるからこそ建設的議論が生まれ、新しい可能性が高まる。それが民主主義の原則で、結論を出すには時間がかかる。新型コロナウイルスへの対策でも、日本はなかなか方向が定まらず、ふらふらしているような印象を受けた。だが、それはなるべく多くの専門家の意見を反映しようとした民主主義の結果であったと私は評価している。

やまぎわ・じゅいち 1952年生まれ。ゴリラが専門の霊長類学者。京都大学前総長。日本学術会議前会長。著書に「家族進化論」など。

 日本学術会議も民主主義を基本として議論を展開する学術の場だ。いわば学者の国会のようなものだ。国会と違うのは政治談議ではなく学術についての論議をすることと、実に多様な学問分野の学者が集まっていることである。日本国籍を持つ87万人の研究者を代表する210人の会員と2千人近い連携会員からなる。公務員だが給与はなく、会議に出席する際に日当と交通費が支払われるだけのボランティアだ。しかも財政難で昨年度の下半期にはそれさえも支給できない事態となった。

 会員の任期は6年で3年ごとに半数が改選される。会員や連携会員、さらに全国の2千以上の学術研究団体の推薦から選考会議が学術的業績の高い会員候補者を選び、首相に推挙する。首相は推薦に基づいて会員を任命することになっている。これは憲法第6条の「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する」に倣ったもので、任命が形式的なものであることは明らかだ。

(後略)