「船曳建夫・東京大名誉教授(文化人類学) 東大卒業生の読書会10年 「コロナ前後で大きく変わった」」

以下、朝日新聞デジタル版(2021/11/14 8:00)から。

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 文化人類学者の船曳建夫東京大学名誉教授(73)は、退官後に教え子との読書会を10年近く続けている。コロナ下では「Zoom」を使ったオンライン読書会に切り替え、月に1回ほどのペースで開いている。「オンラインで参加のハードルが下がったのか、海外で暮らしていて参加できなかった人たちも加わり、コロナ以前よりも増えたくらいです」

 9月には話題の本「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」と「人新世の『資本論』」を同時に取り上げ、フランス、ケニアからの参加者も含め約20人が集まった。

 読書会では1時間ほど本について話し、後半はフリートーク。大学1、2年生が将来の専門を問わず参加できるゼミのOBOG会の流れをくんでいて、参加者には医者もいれば官僚もいる。「研究者になった人が少ないくらいで、企業に勤めた人たちが久しぶりに参加すると、卒業後、30ページ以上の文書は稟議(りんぎ)書以外で読んだことがなかったと言われることもあります」

 さまざまな背景と生活を持った人たちが集まり、本を題材に話し、互いに刺激を受ける。「勉強のための読書会とは違い、私の開いている読書会は正解を求めるためのものではありません。むしろ、問いの宙づりを目指しています。啓蒙(けいもう)して教育できれば『すっきり』なのですが、より良き教育を求めていくとそれだけでは足りないと思っています」

 船曳ゼミは「儀礼と演劇」をテーマに学生たちと舞台をみたり、美術館に行ったりするスタイルだった。「遊んでいるようですが、私のなかでは教育であることを忘れたことはありません」

 読書会を約10年続けてきた感想をたずねると、船曳さんは一瞬言いよどんだ。「コロナ以前と以後であまりにも違うから」

 「コロナ下の読書会はより切実で、生きていく上で重要な細い糸になっています。ロックダウンされていたパリの参加者の孤立感だけでなく、みんながそれぞれフラストレーションを抱えていて、信頼関係のある開かれた場でしゃべりあうことが大切な時間になっていた」

 今回のフォーラムアンケートでも、読書会に参加したことはないが今後参加してみたいという人は約3割いた。年間延べ約1万人が参加する「猫町倶楽部」をはじめ、書店などが主催する読書会も人気だ。

フォーラムアンケートの結果は
 船曳さんは「本について語るというフィルターを通すことで、ふだんは言いにくい思いを話せることもある。古いと思われていた読書会にはまだまだ可能性があります」と話す。(加藤修)