「海越え、つながるキャンパス 海外の学生とのコラボ授業「COIL」、コロナ下で加速」

f:id:amamu:20051228113107j:plain

以下、朝日新聞デジタル版(2021/6/29 5:00)から。

 新型コロナウイルスは大学生の海外留学にも大きな影響を及ぼした。しかし、禍を転じてICT(情報通信技術)で国際交流の裾野を広げようという動きがある。通常の授業の中で海外の学生と学べる仕組みをどう作るか。大学の取り組みが加速している。

 今月9日、関西学院大学兵庫県西宮市)が、米国・サンノゼ州立大学とオンライン会議を行った。会議では「コイル」という単語が盛んに飛び交う。しかし参加しているのは理工系ではなく、教育学や日本語学科の教員たちだ。

 コイル(COIL)とは「Collaborative Online International Learning」の略。ICTを使い、国内にいながら海外の学生たちと学ぶ授業形式のことだ。

 ■同じテーマで議論

 関学でコイルを推進するマティアス・ヘニングス准教授によると、コイルでは国内と海外の大学が協力してシラバス(授業計画)を作る。両国の学生は同じテーマについて議論し、学んだことを発表し合う。渡航先に教育内容を任せていた従来の留学とは異なり、国内の授業を国際化し、一緒に作り上げるのが特徴だ。

 ヘニングス准教授は昨年秋、人材マネジメントを教える自身の授業で、関学として初めて本格的にコイルを導入した。

 日本の産業や雇用について学ぶ、米国・トリニティ大学の授業と連携した。まず両大学の学生がチームを作り、SNSで自己紹介や母国の紹介をして打ち解ける。その後日米の労働市場や、女性、外国人の働き方などについて自国の教員から学び、学生自身の考えはチームで共有する。最終的には各チームが議論の成果をまとめ、発表した。

 関学が行った教育成果を分析するテストでは、授業開始前と比べ、異文化理解に重要とされる「開放性」や批判的思考の数値が大きく伸びたという。

 この成果もあり、関学は今年度は6科目、来年度は10科目のコイル型授業を開く予定だ。サンノゼ州立大学の日本語学科とは、来年度に教育学部の授業が連携することを計画している。

 オンライン会議では関学教育学部の教員から、授業は教員免許取得の要件となっており、シラバス文部科学省にも提出しているので修正したくても融通が利きにくいという課題が出た。サンノゼ州立大学の教員からは、日本語学科では落語もテーマとしており、授業内容をどうすりあわせたらよいかという質問があった。

 ■異文化理解の役に

 ヘニングス准教授は、発表の準備など授業外でも学生の交流はできるので、シラバスを大きく変える必要はないと指摘。また、たとえば日米の学生が協力して落語を作って発表することも、異文化理解の助けになると助言した。

 「留学するお金も時間もないという学生は多い。そんな学生たちも国際的な教育を受けられるのがコイル。大学だからこそできる質の高い授業にこだわっていきたい」

 ■授業は過程を重視

 コイルは15年ほど前に米国で開発され、経済的に海外渡航が難しいという学生らに利用されてきた。その後日本でも広がり、18年度には文科省がコイルを推進する事業を公募。東京大学琉球大学などの10件が採用され、21年度は合計1億8700万円の補助金が出されている。

 全国に先駆けて14年度からコイルを導入している関西大学大阪府吹田市)は、18年12月に「JPN―COIL協議会」を発足させた。コイルに興味のある全国の大学の情報交換や海外大学とのマッチング、教員の研修を支援している。

 関大国際部の池田佳子教授によると、コロナ禍でコイルに興味を示す大学は大きく増えた。協議会は15ほどの大学を会員としてスタートしたが、今年6月3日時点では37大学になった。海外の大学も積極的で、大学同士のマッチングに困ることは減ったという。

 学びの内容も変わりつつある。従来型の授業はテストの結果で学生を評価するが、コイルではプロセスを重視する。学生は議論やグループ学習に参加することが重要で、その積極性をどのように評価すべきか、教員から協議会に相談が寄せられることも多い。

 世界各地で新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、今後、海外渡航の制限緩和が期待される。それでもコイルの重要性は変わらないと、池田教授はいう。「海外企業とのビジネスや外国人労働者と一緒に働く機会が増えるなど、今は国内で生きる上でも国際性は必須となっている。すべての学生に国際的な学びを提供することは大学の責任。渡航とオンラインを共存させ、相乗効果を生み出すことが大切だ」と話す。(狩野浩平)