Toefl500点に届かず、横浜市大で58%が進級できず

amamu2007-10-08

 以前より、このブログでも、日本の大学において全国的に「改革」なるものが志向されているが、それで本当に大丈夫なのかと憂慮してきた。
 それは、きちんとしたデータを提出しないところで、学校運営やカリキュラムを非難し、世間受けをねらうだけで、「改革」と称する教育破壊を経営陣主導で導入し、いわば現場で誠実に教育を担っている人々の意見を全く聞かない傾向が強まっているからである。
 もちろん、例外もある。真っ当な教育改革もあるだろう。しかし、一般社会に住む人たちは、いま日本の大学で進行している「改革」と称する教育破壊、教師集団破壊をよく理解していないようだ。
 それには、メディアの責任が大きい。メディアが掘り下げて伝えていないからでもある。
 以下は、横浜市大新聞で見つけた内容。
 横浜市大の状況について、私はよく知っているわけではない。だけれども、以上書いたことの典型的な例であり、大きな問題を抱えていると思われるので、その印象を書いておきたい。
 私が言いたい論点は、学生の能力の問題でも、怠学的状況でもなく、大学教育「改革」という名の危うさである。

 本学*1広報によると、平成19年度前期期間中3年次へ仮進級していた国際総合科学部1期生のうち、TOEFL500点の進級条件のため58%が2年次に戻る事となった。仮進級が取り消された学生は、引き続き必修の英語授業Practical Englishを履修する他、3年次以上配当科目を履修することが出来ず、仮進級時(平成19年度前期)に習得した3年次以上配当科目の単位を取り消される。

 本紙が独自に本学掲示板に貼り出されたPractical English履修者数を数えた結果、国際総合科学部1期生の履修者数は141名。また仮進級者のうち69名が平成19年度前期中に合格している事が掲示板にて公開されている。

 以上は、横浜市大では、二年次から三年次の進級要件で、Toefl 500点が進級条件となったためで、この条件が課される前から、内部で心配する声が大きかった。
 昨年2006年の11月8日付けの東京新聞夕刊に、以下のような記事が載っていたのは、そのためで、以下、引用しておく。

横浜市大 厳しすぎた?進級要件 2年生半数超 留年の危機 国際総合科学部「TOEFL 500点」届かず 『東京新聞』夕刊第一面(2006.11.8)


横浜市大 厳しすぎた?進級要件
2年生半数超 留年の危機


 昨春、地方独立行政法人となった横浜市立大学横浜市金沢区)の看板学部とされる国際総合科学部で、半数を超す二年生がこのままでは三年への進級が難しい状態に陥っていることが八日、分かった。進級の要件として「英語運用能力テスト『TOEFL』五百点以上」が新たに設けられたためで、大学側は「予想以上に厳しい状態」と頭を痛めている。 (横浜支局・木村留美
 同学部は昨年、商・国際文化・理学部の三学部を統合して新設された。二年生は約七百四十人いるが、進級要件を満たしているのは三百五十七人と半数足らずだ。進級のためには十二月と来年二月に予定される二回のテストのいずれかで、五百点のハードルをクリアしなければならない。
 TOEFLは、米国などの大学に留学する外国人大学生が授業についていける英語力を有しているか評価するためのテスト。横浜市大は、公立大としての存在意義を高める改革の一環として、英語教育の重視を打ち出しており、「五百点は留学して授業についていくために必要な点数」として要件に設定した。
 しかし五百点の壁は意外に高く、在学生からは「このままだと留年してしまう。措置に期待したい」(一年女子)、「五百点は厳しい。もう少し下げてもいいのではないか」(二年女子)と、要件の緩和を訴える声が続出している。「自分は理学系だが、進路によっては、会話中心のTOEFLよりも、専門の英語が必要な人もいる。強制的にやらされるのはどうか」(二年男子)と、同大の英語教育そのものに疑問を投げかける声もあった。
 同大によると、昨年までは三年次への進級要件はなかった。例年、単位不足で卒業できない学生は一−二割程度だったという。大学側は、新たな要件を設けた今年の留年者も「二けたくらい」と予測していた。
 キャリア支援センター統括課は「精いっぱい頑張ってもらうしかない」と学生に努力を促す一方、「進級要件を適用するかどうかを含め、今後検討していかなくては」と予想を超える厳しい状況を憂慮している。

 58%が進級できずということは、約6割の学生である。
 「これからの世の中は英語くらいできないといけない」という世間受けする安易な目標を導入し、現場の意見には一切耳を傾けず、教師集団破壊を目論む政策は、教育とは縁もゆかりもない。
 そもそもTOEFLは、英語がどの程度できるのかという参考程度にはなるだろうが、基本的にアメリカ合州国の大学進学をめざす人間が受けるテストである。それが、進級要件にふさわしいテストと言えるか、疑問がある。
 本来テストとは、生徒の能力を測るものでもあるけれど、同時に自分たちの教育実践の反省材料にもなるものだ。その意味で、自分達で試験を作成し、集中した学習を学生たちの中に組織すべきものだ。外部試験受験は、参考程度にはなるだろうが、安易に外部委託してよいものでないし、丸投げしてよいものではけっしてない。
 教育において試験というものは、試験を課す側も、常に試されているということを教育者たるもの忘れてはいけない。
 横浜市大の進級要件Toefl500点に対して現場の教員はことごとく反対だったと聞いている。現場の教員が反対しているにも関わらず、強行したとすれば、それは誰の責任となるのだろうか。

*1:この「本学」とは、横浜市立大学のこと。