過保護社会で育てられるひ弱な日本人学生

 「それにしても、どうして日本人は、子どもに失敗をさせないのか」と、彼女は不思議がった。ホームステイに関しては日本の保護者がかなり口うるさく言うらしい。わざわざ海外まで子どもを出して、「冒険」させて、それでも最後は「安全」を確保したいというようなことでいいのだろうかとも言っていた。何故わざわざ海外まで連れ出す必要があるのか、日本の国内で、そうした経験を子どもたちにさせられないのか、とても不思議だというのだ。
 彼女の観察では、日本の子どもには、親の目をうかがっているようなところがあり、「いい子ちゃん」が多いという。そして、ひ弱だという。最近の出来事でとてもがっかりしたことは、英語のレベル設定で、いわゆるプレイスメントテストというものをやるわけだけれど、中国人は、「自分のクラス設定が低すぎる」と文句をいう人間が多いのに、日本人は逆に「クラスを下げてくれ」という若者が多いという。日本の若者に、なぜチャレンジ精神が見られないのかと、彼女は嘆いた。
 「これからは中国の時代だと思います。見て下さい、どこに行っても、中国製(made in China)が支配しています」と、私は彼女に言った。実際に、いまの日本人は自信喪失状況ではないのか。中国人ばかりでなく、ちょっと前に、韓国人のメーリングリストやサイトを私はのぞいたことがあるのだけれど、韓国人のやる気というのはすごい。とくに韓国人エリートの意欲は、「日本人敵視」と結びついていて、ハングリー精神において、日本の若者とは比べ物にならないほどの差がある。
「日本の若者は、大変傷つきやすいですね」とも、幸子さんは言った。「実力がないくせに、結構プライドが高いのではないか」と私が言うと、「そうかもしれません」と彼女は答えた。私自身の最近の初めてのホームステイの経験でも、「部屋にいない時は電気を消してほしいとご主人から言われた際に、ユーモアで返したのですが」と言うと、そうしたコトバで容易に傷ついて、「ホームステイを変わりたい」と、日本の若者は言い出し始めるという。この前などは、日本人の学生で、ホームステイ代金をすでに払っていたのだけれど、語学学校を経由してホームステイの家庭先に支払われることもあるので、ホームステイの家から「お金はどうしました」と聞かれただけで、その日本人の子弟は「ホームステイを変わりたい」と、言い始めたという。「お金はとっくに支払っているのに、なんなの」というわけである。
 だから、幸子さんは、ニュージーランド人のホームステイをしている全ての家庭を集めて、注意事項として、「日本人の学生に対しては金の話は絶対にするな」とアドバイスしているそうである。ニュージーランド人なら、そうした彼女の忠告に対して、「それはいったい何故」と不思議がるだろうにと思うと、本当にご苦労な話である。
「語学研修といったって、表面上はきれいに(sugar-coating)にしてある収容所(boot camp)のようなものだ」と幸子さんは言う。これはなかなかうまい表現だ。一人にされたときに、どう生き残れるかという話になるわけだが、最近では、専修大学の男子学生で立派に生き残れる学生がいたけれど、生き残れない日本の学生がたくさんいるらしい。だから、「日本でできるようなことを何故外国でさせるのか」という彼女の疑問となるわけである。彼女の観察によれば、日本の子どもは、「経験させないし、教えてあげないのだから、可愛そうだ」という結論になるのである。
 こうした傾向は、前からあったが、現在ますます強まっているのかもしれない。まさに「過保護社会」(spoon-fed society)である。いたれりつくせりだから、子どもの周りの人間が疲れてしまうし、当の子どもが育たず、ダメ(ruin)にしている。大変残念なことに、幸子さんの話を否定できないと私は思った。日本の良さはもちろんあるが、これまでもよく言われてきたことだけれど、自立をうながすような躾を日本でももっとすべきだ。子どもは、失敗を恐れずやらせて、失敗したら、失敗から学ばせるように躾けないといけない。