ポケノにあるイギリス軍の「イギリス女王の砦」

 最初の目的地は、Site 1 –Queen’s Redoubt, Pokeno。これは「イギリス女王の砦」とでも訳すのだろう。名前から推測するに、イギリス女王が象徴であり、侵略戦争の「大義」だったわけだ。
 ポケノでハイウェイ1号線を降りる。
 ハイウェイ1号線を降りて町二入っても、グレートサウスロード(Great South Road)の名称がついているから、ポケノの町を貫くこの道路がどうやら昔のハイウェイらしい。言ってみれば、旧道なのだろう。ハイウェイ1号線を降りてすぐのマクドナルド道路(McDonald Road)を左折し、車をとめて歩き始める。
 セルビィ通り(Selby Street)で自宅の垣根の手入れをしている男がいるので、砦跡地のある場所について聞いてみた。するとどうやら、現在このセルビィ通りには家が建っているけれど、現在のハイウェイ1号線と旧道グレートサウスロードにはさまれたこの辺一帯が、砦であったようだ。
 男の説明ではマクドナルド通りに左折した付近に標識が立っているというので、戻ってみると、たしかに何の変哲もない空き地に、標識が立っていた。
 緑色の標識に黄色い文字で、「1862年の冬、土で作られた大きな砦が、大英帝国の軍隊によって、ここに建てられた。そしてその一年後、ここより南方のマオリの土地の侵略のため、ここが主要な基地となり、1863年から64年にかけてのワイカト戦争のきっかけとなった」(‘A large earthwork fortification was established here by the British Army during the winter of 1862. A year later it was the main base for the invasion of the Maori lands to the south which initiated the Waikato War of 1863-64.’)とある。
 ワイカト戦争を描写するのに、「侵略」(invasion)というコトバを使っている点で、さすがにニュージーランド歴史認識は、普通でまともだと感じ入った*1
 さらに続けて、この土地は、2001年にASB銀行トラストが資金援助している「イギリス女王の砦」トラストによって購入され、遺跡発掘と砦の再現、そしてここにセンター(interpretation centre)を作る予定であるという。
 今は何もない空き地だが、小冊子でも、このトラストは1999年に組織されたとあり、「この跡地は、歴史を学ぶためにニュージーランドで最も多く訪れられる場所になる可能性を秘めている」(‘The site has the potential to become one of the most visited historic places in New Zealand.`)と書かれているから、将来は、一大博物館に様変わりしているかもしれない。
 そんなことを想像しながら、この空き地を眺めつつ木陰でサンドイッチの昼食をとっていたら、この歴史的跡地から一人の女性が出てきて歩いて買い物に出かけたり、自転車に乗っている男が出てきて、旧道を往復したりしている。
 立ち入り禁止になっていたから、私は遠慮して入らなかったのだが、どうやら個人宅があって、この跡地を通路にしているようだ。
 と思っていたら、自転車に乗っていた男が、今度はアイスクリームをなめながら、私の方に向かって歩いてくる。
 腕に刺青をしてサングラスをかけたその男は、どうやら私の偵察に来たらしい。
 たしかにこんな何もないところで、ずっと空き地を眺めてサンドイッチを食べているアジア系の男なんて、かなり変だ。いぶかしがられても不思議ではない。
 その男はオークランドから遊びに来たらしいが、コトバをかわすと、彼はこの歴史的跡地が何であるのか全く理解していないようだった。
 私に対する偵察が済んだら、彼は元の場所へと帰って行った。
 ポケノのこの跡地が一大歴史博物館になるその日を願って、私も「イギリス女王の砦」跡地を立ち去ることにした。

*1:「侵略」というコトバは、マオリ戦争の歴史的記述で、ニュージーランドでは、普通に使われている。例えば、Michael Kingは、"The invasion of Waikato began on 12 July1863 when Lieutenant-General Duncan Cameron led his combined regular and volunteer troops across the Mangatawhiri River."と、その「ニュージーランド史」(Penguin History Of New Zealand 1/e,The)で書いている。p.214-215