「首相答弁崩壊も 官邸疑惑深まる」

以下、毎日新聞(2018年4月11日 02時30分(最終更新 4月11日 11時04分))より。

 学校法人「加計(かけ)学園」による国家戦略特区を利用した獣医学部新設計画を巡って、愛媛県今治市の職員が2015年4月、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)らと面会した内容を記録した文書が残っていた。安倍晋三首相らの関与をうかがわせるやり取りが事実なら、これまでの政府の国会答弁は次々に崩れかねない。安倍政権に緊張が走った。

計画知った時期矛盾?
 柳瀬氏が「首相案件」と発言した文書は存在するのか。注目された10日の記者会見で、愛媛県中村時広知事は「職員による備忘録だ」と認めた。文書が残っていないため、今後の国会論戦で政府側は内容の信頼性を問題にするとみられるが、中村氏はそれを見越したかのように「県の職員は文書をいじる必然性は全くない。県庁の職員は本当に真面目」と強調した。

 首相の友人の加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園獣医学部新設計画を巡っては、愛媛県今治市が07年から構造改革特区で申請してきた。しかし、14年までの計15回の申請はいずれも却下。中村氏は会見で「岩盤がいかに固いか、皆が感じていた」「今治市にとって、本当に長年の悲願だった」と述べ、文書を認めたことと計画への支持は別問題だという姿勢を示した。

 安倍首相は昨年7月、衆参両院の予算委員会で、計画を知った時期について「17年1月20日」と説明した。国家戦略特区諮問会議で加計学園が事業者に認定された日で、首相が知ったのは会議の直前だという。首相が加計氏と食事やゴルフを重ねたことはよく知られているが、首相は同7月24日の衆院予算委で「『獣医学部を作りたい』ということはなかった」と答弁した。

 その後も首相は「私から指示を受けた者は一人もいないことは、委員会の審議で明らかになっている」(昨年11月28日の衆院予算委)と再三、述べている。

 しかし、野党は一貫して首相の説明を疑問視してきた。「首相案件」という柳瀬氏の発言が事実なら、首相は15年4月以前から認知していたことになる。

 柳瀬氏は10日に発表したコメントで、獣医学部新設計画が国家戦略特区の追加規制改革事項として決定されたのは16年11月であり、具体的な地点の選定手続きは同氏が秘書官の職を離れた後だったと指摘。「私が外部の人に、この案件が首相案件になっているという具体的な話をすることはあり得ない」と反論した。

会食で話題に?
 ただ、愛媛県の文書には、15年4月2日に県や今治市加計学園幹部が柳瀬氏らと面会する前に、首相と加計氏が会食した際、計画が話題になったことを示す部分がある。同じ日の内閣府の藤原豊地方創生推進室次長(当時)との面会では、藤原氏が「要請の内容は総理官邸から聞いている」「国家戦略特区の手法を使って突破口を開きたい」などと述べた。国家戦略特区は首相官邸主導の仕組みだけに、官邸の関与をうかがわせる発言だ。

 柳瀬氏は昨年7月25日の参院予算委で、今治市職員らとの面会について民進党議員から質問され「記憶をたどる限り、会っていないと思う」と繰り返した。文書が判明したことで、本当に面会していなかったかどうかが改めて問題になる。

 今月3日、加計学園が運営する岡山理科大獣医学部は開学し、加計氏は「世界に冠たる獣医学部に高めたい」と胸を張った。【畠山哲郎】

自民幹事長「うんざり」
 森友学園に関する決裁文書改ざん問題などに隠れた格好になっていた加計学園の問題が再燃し、政府・与党は動揺している。柳瀬氏は10日、愛媛県今治市の職員との面会を重ねて否定したが、安倍政権への逆風は強まるばかりだ。

 菅義偉官房長官は10日、杉田和博官房副長官を通じ、内閣府と文科、農林水産、厚生労働各省に文書の存在を調査するよう指示した。中村知事によると、県職員が作成した備忘録は残っていないが、同県は引き続きデータを探す方針。政府も放置できなくなった。

 「首相案件」という柳瀬氏の発言の真偽を巡って野党が攻勢に出るのは確実だ。自民党森山裕国対委員長は記者会見で「首相秘書官がこんな先走ったことを言える状況だったのかなという気がする。本当にあったのかよく分からない」と述べ、首相側近も「メモの内容は疑わしい」と火消しに回った。

 しかし、与党内では相次ぐ問題の発覚に政府への不満が募っている。自民党二階俊博幹事長は会見で「国民もうんざりしているだろうが、われわれもうんざりしている」。公明党山口那津男代表も「関係部署で説明責任を尽くすことが大切だ」と突き放した。

 自民党石破茂元幹事長が「政府が言ってきたことが正しいと証明する責任は政府の方にある」と述べたように、具体的に反証しなければ政府はますます分が悪くなる。昨年10月の衆院選自民党が圧勝してもなお「モリ・カケ」問題や日報問題がくすぶるのは、説明責任を十分に果たせていない政権にも原因がある。

 こうした中、麻生太郎副総理兼財務相と二階氏は10日夜、東京都内で会談し、「この難局に、麻生派二階派が力を合わせて政権を支える」と確認し合った。

 立憲民主党など野党6党の国対委員長は10日、国会内で会談し、愛媛県側との面談に出席したとされる柳瀬氏らの証人喚問を要求することで一致した。11日には首相が出席する衆院予算委員会の集中審議が予定されており、野党はさらに追及を強める構えだ。立憲民主党辻元清美国対委員長は「首相主導だった疑いが濃厚になった」と述べた。【浜中慎哉、立野将弘】