「「今やることやない」看板政策を止めさせた支持者の迷い」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/11/3 19:06)から。

吉村知事への支持と都構想への賛否

 民意が真っ二つに割れた大阪都構想住民投票。約1万7千票差で否決となった要因の一つが、都構想を進める大阪維新の会を支持する人たちの「離反」だ。

 1日午後7時45分。夜のとばりが下りた大阪市福島区の投票所に、スーツ姿の男性(47)が駆け込んできた。大阪市を廃止して四つの特別区に再編する都構想の賛否を問う住民投票の締め切りまで残り15分。「ぎりぎりまで悩んでいた」という。

 大阪・北新地の日本料理店で働く男性は、約1万票差で否決された前回の住民投票(2015年実施)では賛成に投じた。

 大阪が変わる最後のチャンスだ――。当時の維新代表で大阪市長だった橋下徹氏のそんな訴えに共鳴したからだ。だが、今回は反対に投じた。新型コロナウイルス感染拡大で生活が変わったことが転機という。勤め先は接待が中心で大打撃を受け、飲食店支援をうたう政府の「Go To イート」でようやく息をつけるようになったばかりだ。

 「維新は急ぎすぎだ。誰もが踏ん張るのに必死な今やることやない」

 2011年のダブル選で知事・大阪市長の両ポストを維新が奪ってから9年、大阪では「維新政権」が続いてきた。朝日新聞社が1日、住民投票を済ませた有権者を対象に実施した出口調査によると、吉村洋文知事の支持率は68%にのぼった。ただ、支持する人のうち都構想に賛成したのは67%。33%は反対だった。

 「維新の人たちの政策の話はいつもわかりやすいのに、都構想については本当に歯切れが悪かった」

 子ども3人が小中学校に通う大阪市阿倍野区の主婦(44)は、幼児教育無償化や私立高校の授業料無償化を進めた維新を評価。告示前の取材に「賛成」と答えていたが、賛否両派の対立が深まったまま投票が近づく中、迷いを感じた。

 「僅差(きんさ)で賛成多数となった場合、納得しない市民を残したまま都構想を進めてうまくいくのだろうか」

 LINEでつながる「ママ友」の間でも、吉村知事支持では共感しながらも賛否は割れた。同居する80代の義母は「わからない」と投票を棄権した。最終的に自身は賛成に投じたが、「現状維持という結果になり、ほっとした面もある」。

 やはり維新の子育て世代向け施策に好感を持つ北区の30代の女性会社員は、締め切り直前まで投票に行くか迷った末、反対に投じた。「正直、大阪市を廃止するメリットがよくわからなかった。今はタイミングじゃない。世論で賛成が多くなってきた時に、住民投票をやればいい」

 かつて橋下氏は維新の会合で「僕らの武器はふわっとした民意」と語った。2度目の住民投票。なぜ、地方選挙では維新を勝たせ続けてきた民意は割れ、否決という結論を導いたのか。

 大阪の有権者の意識や行動を継続調査してきた善教将大(ぜんきょうまさひろ)・関西学院大准教授(政治行動論)は言う。「現状で維新が府知事と市長を握り、府市の調整はうまくいっているのに『なぜ大阪市の廃止まで行う必要があるのか』という素朴な思いを持つ緩やかな維新支持層に、メリットを感じさせる説明ができなかったことが大きい」(武田肇、小林太一)

公明支持層も真っ二つに
 前回と今回の住民投票の大きな違いは、前回反対運動をした公明党が賛成の立場で臨んだことだった。ただ、公明党の支持母体・創価学会の会員たちの間には維新への反発も根強く、住民投票の賛否は割れた。

 朝日新聞社出口調査によると、公明党の支持層は賛成46%(前回21%)、反対54%(同79%)だった。

 東住吉区に住む40代の学会員の男性は、迷った末に賛成に投じた。公明党山口那津男代表が賛成側の応援演説で大阪入りしたことが決め手になったという。「党の本気度を示す姿勢を見られて背中を押された」

 一方、阿倍野区に住む80代の学会員の女性は、90代の夫とともに反対票を投じた。理由は、60年暮らしてきた阿倍野区がなくなるのが悲しかったからだ。

 「ずっと公明党のためにやってきて、党を信用しているが都構想に関心はない。これで心おきなく生きられる」

 投票用紙に「保留」と書いた無効票を投じたのは70代の学会員の男性だ。東京一極集中の現状に疑問を抱き、大阪の発展のためには税金の無駄遣いをなくしていく必要があると考える。ただ、大阪市を四つの特別区に分割する都構想では、区ごとの財政に差が出る懸念が拭えなかった。

 「時間をかけ、みんなで意見を出し合って慎重に進めるべきなのに。都構想賛成を決めた公明党の議員に猛省を促す思いを込め、『保留』と書いた」(小林太一、添田樹紀)