「菅首相の答弁 記者サロンでファクトチェックすると…」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/12/2 4:00)から。

 政治家の発言や社会に広がる情報などの真偽を検証する「ファクトチェック」。朝日新聞社は先月、オンラインイベント「記者サロン 臨時国会をファクトチェック」を開いた。日本でファクトチェックを推進するNPO「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」副理事長の立岩陽一郎氏と法政大教授の上西充子氏と一緒に、菅政権で初となる臨時国会の論戦などを検証した。

 ファクトチェックは、市民が正確な情報を共有するためのジャーナリズムの手法だ。米国では専門の政治ニュースサイト「ポリティファクト」が2008年の米大統領選の報道でピュリツァー賞を受賞している。

 先月の米大統領選を現地で取材した立岩氏は、米国ではテレビ局などにファクトチェック専門の担当者がいて、リアルタイムで取り組んでいることを紹介。「トランプ大統領の発言があまりに容易にわかるうそで、(社会の分断を招く)かなり危険なうそだったため、非常に重きが置かれている」と解説した。

 イベントでは、「正確」から「虚偽」まで9段階で評価するFIJの判定基準を使って、菅義偉首相の臨時国会での発言などをファクトチェックした。

 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した問題で、首相が6人を含む105人の推薦名簿を「見ていない」という発言を検証した。10月のインタビューや11月2日の衆院予算委員会で「見ていない」と述べていた。

 ところが、同月4日になって、決裁前に杉田和博官房副長官から報告を受け、6人の除外を認識していた、と説明し始めた。

 立岩氏は「6人を外したという極めて重要な情報をあえて省いている」と指摘。一見事実と異なることは言っていないが、重要な事実の欠落などにより誤解の余地が大きい場合の「ミスリード」と判定した。

 立岩氏は「日本は一刀両断にできない社会だが、発言した人に立証責任がある米国のファクトチェックでは『虚偽』と認定するだろう」とも述べた。

 上西氏も「ミスリード」と判定した。「105人の名簿は見ていないが、6人は事前に知っていたと最終的に話のつじつまを合わせている。最初からそう言えばいい」と語った。

 さらに「これはご飯論法と同じ」と指摘。「ご飯論法」とは、「朝ご飯を食べましたか」と聞かれて、実際にはパンを食べているのに「ご飯は食べていません」と何も食べていないように錯覚させる答弁手法だ。上西氏は「最初の『見ていない』という発言は、自分が関与していないと思わせるミスリードで、普通に考えれば虚偽答弁だ」と論評した。

 イベントでは「必ず学術会議の推薦の通りに首相が任命しなければならないわけではない点は、政府の一貫した考え」という首相の答弁についても検証した。

 参加者からは「ニューヨーク・タイムズがファクトチェックをしても、トランプ氏支持者には逆効果に思える」と質問が出た。

 立岩氏は、米国においてファクトチェックが「トランプ大統領を批判するリベラルなメディアの道具」とみられていることへの危惧を示した。「大事なことは、メディアのものではなく、市民のものでないといけないというところだ」と語った。(南彰)