「定年延長、桜、改ざん…際立つ安倍政権の「国会軽視」」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年3月31日 11時32分)から。

 2020年度予算が成立し、通常国会の論戦は6月の会期末に向けて後半に入った。前半では桜を見る会や東京高検検事長の定年延長、森友学園をめぐる公文書改ざんといった疑惑は晴れず、国会を軽視する政権の体質もあらわになった。新型コロナウイルス感染症対策でも、国会が事後検証するための「記録」作成に消極的な姿勢が目立つ。


解釈変更、法律の安定性に深い傷
 前半戦では、国会審議の権威を揺るがす問題があった。発端は1月31日。政府は63歳の誕生日を控え、定年退職間近だった東京高検の黒川弘務検事長(63)の定年延長を閣議決定した。政権に近いとされる黒川氏が検察トップの検事総長に就く可能性が残された。検察庁法で、検事長を含む検察官の定年年齢は63歳とされ、定年延長規定はないが、森雅子法相ら政府側は当初、国家公務員法の延長規定を当てはめれば可能との認識を示していた。
 説明が揺らいだのは2月10日の衆院予算委員会立憲民主党(その後、離党)の山尾志桜里氏が、国家公務員法の延長規定について「検察官には適用されない」とする1981年の政府答弁の存在を指摘。森法相は「詳細は存じ上げない」とし、従来の説明で乗り切ろうとしたが、同13日の衆院本会議で、安倍晋三首相が81年の政府答弁で説明した法解釈を変えたと答弁した。
 ただ、解釈変更について政府内で事前に検討されたことを示す明確な根拠は示されないまま。野党は「黒川氏の定年延長ありきだ」「過去の政府答弁との矛盾を突かれ、後付けで変更したのでは」との追及を受けて、森法相から飛び出したのが「東日本大震災時に検察官が最初に逃げた」発言。法解釈を変更した理由に「社会情勢の変化」を挙げた森氏が「どんな変化があったのか」と問われた際に見せた「迷答弁」だった。大きな批判を呼び、後に「個人的見解だった」と撤回した。
 過去の答弁と矛盾した解釈でもいまの政権が簡単に変えられるという前例が、法律の安定性に深い傷を残した。

 新型コロナ感染症に対応する改正特別措置法で緊急事態を宣言した場合、民放テレビ局の放送内容に政府が指示を出せるかどうかという点について、宮下一郎内閣府副大臣はいったん「指示を出せる」と説明。野党の反発を受け、「誤解を招く」と撤回したうえで、放送法との関係から「指示できない」との見方を示した。野党は「指示できない」という解釈を将来変更する可能性はないかとさらに追及。宮下氏は将来の解釈変更については「答える立場にない」とした。こうしたやりとりをめぐり、日本維新の会串田誠一氏は、定年延長問題を念頭に、「勝手に解釈を変えたから答弁が信用できない」と批判した。


 国会答弁が軽く扱われる一方で、首相が自らの答弁を重くとらえる「二重基準」も垣間見えた。首相後援会が主催する「桜を見る会」の夕食会についての質疑。首相は野党が求める文書の提出を拒み、こう言い切った。「私が話しているのが真実。信じて頂けないならば、そもそもこの予算委員会が成立しない」
徹底した調査・資料提出の拒否
 「答えない」と一度決めたら、徹底的に拒否する姿勢も際立っていた。公職選挙法違反などの疑惑が指摘された桜を見る会の夕食会で、野党は会費5千円が「安すぎる」と疑問視。内訳を証明する明細書の提出を求めたが、首相はホテル側の「営業の秘密」をたてに拒み続けた。検事長の定年延長問題では森氏が「個別の人事」を理由に答弁拒否を繰り返す。45分間の質疑の中で、計36回、「個別の……」と連発する場面もあった。


 森友学園の公文書改ざん問題をめぐっては、改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員の手記が公表され、野党は「新しい事実がある」と再調査や第三者機関の調査を要求。しかし、首相や麻生太郎財務相は、財務省がすでに報告書をまとめていることなどを理由に応じていない。
 公文書による「記録」を重視しない姿勢も続く。定年延長の法解釈変更では、森法相は文書を残さない「口頭決裁」を国会で明言。文書が残っていれば「後付けで法解釈変更を行った」とする疑問を払拭(ふっしょく)できるのだが、証拠となる文書は示さないままだ。
 桜を見る会の推薦者名簿をめぐっては、内閣府が国会に提出した際に一部を白塗りしたことが発覚。公文書管理を担当する北村誠吾地方創生相は白塗り文書について「改ざん」ではなく問題ないと説明したが、野党は公文書管理法違反だと強く反発した。
 新型コロナウイルス感染症対応でも「記録」に後ろ向きだ。
 政府は感染症拡大を「歴史的緊急事態」に指定し、政策の決定・了解が行われた場合の議事録保存を義務づけた。しかし、一斉休校の要請などを実質的に決定した首相や閣僚、省庁幹部による「連絡会議」について、首相は「会議という名前だが、基本的には省庁が私に対してブリーフ(報告)を行うもの」として、詳細な議事録作成に消極的だ。記録を残さなければ、私権を制限する「緊急事態宣言」など政府が下す判断の是非を事後的に国会が検証できなくなる。(三輪さち子、永田大)