ネルソン空港に向かう

 さて、エイブルタズマンに別れを告げて、今日は南島を離れ、北島のロトルアに向かう。
ネルソン空港に向かうバスの中は、窓が曇っているため外の景色がよく見えない。サンフランシスコから来たというアメリカ人女性旅行者が、窓をふくものはないか運転手に聞いている。外に広がる山々の景色が名残惜しいらしい。どうしても外の景色が見たいのに、車内には雑巾もないようだ。仕方なしに彼女は他の客から、ちり紙をもらって拭きだした。国立公園でシーカヤックとトランピングを充分に楽しんだ私はとりたてて外の景色に興味はなかったが、彼女の気持ちは理解できる。私も窓拭きを手伝う。仕事でリストラにあって今回の旅行で貯金を使い果たしたと、彼女は言った。まさに感傷旅行だから、意識が観光客のそれである。けれども、このバスは観光客だけを相手にした観光バスではない。ネルソン空港に用のある者どうしが予約したバスであり、それでいうと、一番観光客らしいのが彼女だった。私の隣に座わっている南米系の男は南アメリカから来たと言った。明らかに観光客でないこの男は、季節労働者として果物摘みをしていたという。そもそもはウルグアイの写真家であるらしかったが、彼は名前をアルバロ(仮名)と名乗った。果物摘みには日本人もまじっていたらしい。知り合いになった日本の女性の名前を言っていたが、親切な女性だったという。
 空港のカフェで、このアルバロとコーヒーを一緒に飲む。どうやら今回の旅は里帰りのようだ。写真談議をして、メールアドレスを交換して彼と別れる。
 このネルソン空港には明るい日差しが入る。やはりどこまでも「陽のあたるネルソン」(Sunny Nelson)である。空港内のインターネットマシンは壊れていて使えなかったが、空港内にはヘッドフォーン族がいないし、携帯電話族もほとんどいなかった。