イングランド人の一人旅をしている若者と語り合う

 宿に帰ると、青年がテレビを見ている。アレックス(仮名)というイングランド出身で、彼も一人旅らしい。一人旅をしているなんて変わり者じゃないのかと言うと、たしかに西洋社会では伝統的にはカップルが主流だが、最近はそうでもなくなってきたと言う。彼はいま、タイのKho Samuiに住んでいて、不動産関係の商売をしているという。アレックスはイギリスのダメさ加減もわかっている若者のようで、いろいろ話がはずむ。彼の同世代のイングランド人は麻薬に手を出して自殺した奴とか破滅的人生を送っている奴もいたらしい。その点、自分はタイに行って運が開けたという。両親がちょうどヒッピー世代で、実際両親ともヒッピー的な人生哲学をもっている。とくに母親が自由人であるらしい。父親も基本はヒッピーだが、そのくせ資本主義的でビジネスに長けているのだそうだ。「それじゃ子どものアレックスは、母親と父親の両方から遺伝子をもらったようなものだね」と私が言うと、そうだなと彼は否定しなかった。
 英語を話せる弁護士をタイで雇って、ビジネスも順調なので、運が良ければあと5年でリタイヤするつもりだとアレックスは言った。タイは面白く、離れるつもりはないけれど、旅行先としてはニュージーランドも好きだという。今回も車でまわっているが、ベイオブアイランズ(Bay of Islands)が最高だったという。ベイオブアイランズにまだ行っていないなら必ず訪れるように薦められた。
 アレックスはイギリスの駄目さ加減も分かっている奴だが、それでもロンドンにはいつか行くべきだと私に言う。一人旅どうしで妙に気が合ったのかもしれない。ビールでも飲もうと言って、車からビールを出してくる。このモーテルには食器から包丁から何でもあるのだが、どういうわけか栓抜きがなかった。それでも、ドアのヘリを使って栓を抜いて二人でビールを飲んだ。私もいつの日か奴と再会しにタイに行ければと思い、メールアドレスを交換した。タイに来るなら、どこで会ったかメールに書いてくれという。明日の朝はお互いにあわただしい。挨拶ができないかもしれないので、「それじゃ、これで」と私は彼に挨拶をして、それぞれの部屋に行って休むことにした。