台所にメインシェフは二人もいらない

 昼ごはんとして、コブで出汁をとったわかめの味噌汁をつくって、今日は腹いっぱいウニ丼を食べた。
 ジュディが帰ってからというもの、私はご飯を一切作っていない。今日は、彼らはゴルフだし、私はフライフィッシングの市民講座なので、昼飯と夕飯は自分でつくるということをジュディと確認していた。
 冷蔵庫には、新鮮なウニがたくさん残っているが、彼らはけっして食べないから、早めに片づけないとと思っていた。
 もともとニュージーランドでご飯など毎日は作る気がなかった。三ヶ月彼らがいなくなってしまったので、仕方なく中古車も買ったし、買い物や料理をするはめにもなったのだ。
 そもそも台所に二人も「主婦」がいたりすると、ろくなことはない。いざこざのもとだ。政治的に考えれば、料理長は一人に限る。
 ところが、例のしゃぶしゃぶパーティから、次女のジョニや隣人のハンナを通じて、結構私が料理をするということが話題になってしまって、ジュディが多少嫉妬しているような雰囲気がただよい始めている。これは政治的にまずい状況だ。
 魚類と鶏肉は生では危ないだとか、ホタテは白ワインで調理するに限るだとか、ジュディの少し挑発的な発言も伺える。こうした場合は、絶対にさからってはいけない。それは悪化するだけだからだ。
 そのジュディが、巻き物を巻く道具を見つけて「今度、寿司を作ってみてよ」なんて言い出している。私は、「巻き物をつくる道具は買ったのだけれど、結構むずかしくて、うまく巻けないんですよ」と、実際巻き物がうまく巻けないのは事実だけれど、ごまかした。
 寿司用のショウガなんかも冷蔵庫に入ったままなので、「これは何」と聞かれたりする。「ショウガだけど、必要なかったら捨てても構いませんよ」と私は言ったが、ジュディも私も食べ物に関しては無駄にしないということで意気投合しているから、少しやっかいだ。
 ジュディは、二日前の夕食なんかには、牛肉炒めに、このショウガを入れたりしていた。それで、結構おいしかったので、「うん、素晴らしいアイデアですね」と私は褒めちぎったのだが、私の褒め方が下手なのか、ぎこちなかったのか、ジュディは私のコトバを100%信用しなかったようだ。
 台所に二人の主婦が立つとろくなことはないから、私は、「料理の上手なジュディが帰ってきたから、これで一切の料理からお役御免になることができる」と高らかに宣言しているのだが、ジュディは、それでも私のこのコトバを100%信用していないようだったから、ますます私は台所から遠ざかることを固く誓った。