アワビは好きかとタミハナが私に聞くので、もちろんと言って、日本であわびは贅沢な海産物であることを伝えた。もちろん、アワビは私の大好物のひとつである。
こうしたアワビも、ウニ同様、潮干狩り感覚で子どもたちと一緒に取ってきたものだという。場所は、これもカーフィアの近くのようだ。
ニュージーランド全体は日本よりも消費文化に毒されておらず、自給自足が結構主流な部分がある。
自給自足できる部分があるということは、全てのものを買うしか選択肢がないような消費者よりも、抵抗力がある。キーウィーは、あまりにも高い野菜は、作れるなら自分で作った方がいいという感覚を持っている。
マオリにとっては、魚介類も同じである。彼らは、今なおアワビやマッスルを取って食べているのである。
マオリ語の講師のヘミも、カーフィアの別荘では、マッスル貝などを取って食べると言っていた。
私がフィッシングはできるのと言ったら、笑いながら、そんな面倒なことはしない。ゴム長靴と網で取ると言っていた。フライフィッシングはどうと聞いたら、そんな高尚なものは必要ないと、これまた笑って言っていた。
海からあげれば、タダなのである。ウニやマッスルやアワビを、どうして魚屋で買う必要があるのかといった感覚があるのだろう。
さて、アワビである。
タミハナが私の前に差し出してくれたものは、薄青緑色したクリーミーなソースの中に、アワビが角切りになって入っている。冷蔵庫で冷やされていたものだ。
この薄青緑色した色は、アワビの自然な色から出ているという。黒っぽいブツブツも垣間見える。
これを一口食べてみると、クリーミーなソースの中のアワビの食感がたまらない。これは、上品なフランス料理の雰囲気だ。なんといっても、気品がある。
タミハナは、このアワビのクリームソース和えとは別に、あわびを丼一杯持ってきて、そのアワビを薄切りにし始めた。
いわば、アワビのお作り、アワビの刺身である。
タミハナは、このあわびも手巻き寿司にいいのではないかという新しいアイデアを出した。
このアイデアは、まさに正解である。
新鮮な食材であれば、手巻き寿司の具は何でも合うことを発見したタミハナはさすがだ。
この辺の共通感覚が、日本人とマオリにはある*1。
タミハナの父親も、寿司なるものを生まれて初めて食べたようだが、これはうまいねと好評だ。
いったん作ったら、冷蔵庫に入れれば、食品として持つのかとタミハナの父親が聞くので、「寿司は、タイミングが重要です。作ったら、すぐに食べないといけません」「本格的な寿司をお望みなら、家庭ではダメです。ちょっとお高いですが、日本でプロの寿司屋に行くしかありません」「でも、必要にして充分ということであれば、素材としての寿司は、家庭でも十分楽しめます。新鮮な魚介類と、海苔と、寿司飯と、ワサビ醤油さえあれば」と、これまで何度も説明をしてきた内容を私は紹介した。
正直いって、マオリの方が、寿司は説明のし甲斐がある。
それは、マオリなら、心底、寿司を楽しんでもらえるというように私が確信しているからだ。