マドンナは、貴子役の池内淳子。
本作では、さくら(倍賞千恵子)が、「母さんの唄」を歌う場面が秀逸。
また母親の葬式の場面で、母を思う博(前田吟)が好演している。
それに、博の父親役・諏訪飈一郎で志村喬の存在感。
葬儀後の家族の対話の場面は、小津安二郎の「東京物語」を踏まえた家族の話のような気がする。さくら(賠償千恵子)が紀子(原節子)を思い出させてならない。
志村喬の寅次郎に諭す場面がなんといっても秀逸。
また、子供を思う後家さんの役を池内淳子が見事に演じていた。
博、おいちゃん(森川信)、諏訪飈一郎の組み合わせだと、コミュニケーション不全に陥るのも可笑しい。
おいちゃんは、やっぱり、森川信がいいなぁ。
本作は、2時間ものになり、日常の暮らしの中に幸せがあるというテーマを表現する全体の演出が素晴らしい。
饅頭泥棒をして子供と遊ぶ寅次郎。ヨハンシュトラウスの「春の声」が始まると、楽しい遊びと解放感が始まる。地域の教育力についても、ちょっぴり考えさせてくれる。
最後の寅次郎と貴子との場面は、「無法松の一生」が、少しだけ透けて見える。
なんともすてきな場面だ。
さらに、さくらと寅次郎の場面。意識が流れるような展開はすばらしい。
1971年12月公開。