「そこが聞きたい:低線量被ばくの影響 インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏」(毎日新聞)

 毎日新聞のインターネット版に、インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏のインタビューが紹介されていた。
 インゲ・シュミッツ・フォイエルハーケ氏は、「1935年、ドイツ・ニーダーザクセン州生まれ。ブレーメン大で実験物理の教授として放射線の健康影響を研究。市民団体「ドイツ放射線防護協会」創設メンバー。04年からECRR委員長」と紹介されている。
 部分的な引用では、正しく伝わらないかもしれないが、部分的に引用する。




 放影研による原爆被害者の研究が国際放射線防護委員会(ICRP)による放射線の健康リスク評価の基礎データになっていることについては。

確かに、放影研の調査は重要な情報だ。しかし、原爆投下から最初の5年間のデータが欠けている▽心身が傷つき適切な医療を受けられなくても生き残った「選ばれた人々」のデータである▽原爆投下後の残留放射線を無視している−−などの理由で、限定的な情報でもある。一方でこの数十年間、原子力施設の事故や原発労働者、医療用X線照射、自然放射線などに関して、さまざまな研究で低線量被ばくの健康影響が裏付けられてきた。だが、そうした研究の多くは広島・長崎のデータと矛盾することを理由に無視されてきた。ICRPのリスク評価は特に、長期間受け続ける低線量被ばくの影響を過小評価しており、がん以外の病気への意識も欠けている。


 100ミリシーベルト以下の被爆はほとんど影響がないという見解については。

これまでの医学的知見を全く無視した説明だ。100ミリシーベルトを下回る線量でのがんの発症は既に医学誌などで報告されている。放射線は細胞の突然変異を促進させ、これ以下なら安全という線量の「しきい値」は存在しない。予防原則に立って被ばくを低減させる対策が必要だ。


 不安からくるストレスのほうが、放射能そのものから生じる健康被害より上回るという意見や、過剰な反応で経済活動への影響を心配する声があることについては。

騒ぐことのリスクが放射線による健康リスクを上回るという説明は、常になされている。ドイツでもチェルノブイリ原発事故後、同じ主張が展開されたが、科学的根拠のない主張だ。経済活動よりも、これから生まれる子どもを含めた市民の健康こそ、最も大事なことではないだろうか。もちろん、何も分からずに騒ぐのはよくない。環境中や食品の放射線量、個々の被ばく線量をきちんと測定し、それが何を意味するかを市民自らが知ろうとすることが大事だ。


 日本政府の対応についての評価は。

(半径20キロ範囲を警戒区域の指定したことなど評価しつつも)だが現在、他の原発を再稼働させ、意識を「復興」に切り替えようとしていることは、国民に対して非常に無責任ではないか。
広島・長崎の原爆、あるいは過去の大気圏核実験では、まき散らされた放射性物質の総量が明確だ。しかし福島の場合、正確な放出量が今もって分からない。質・量ともに原爆をはるかに上回る核燃料が無防備な状態で存在し、今後安全に回収できるかも不明だ。事故直後より大幅に少ないとはいえ、放射性物質の放出も続いている。事実の深刻さを認識すべきだ。