2月4日の「天声人語」

amamu2015-02-04

 以下、2月4日の朝日新聞から。

現場を熟知する人の言葉には耳を傾けさせる力がある。ベトナム戦争湾岸戦争を取材したベテランのジャーナリスト橋田信介さんは2003年、イラクへの自衛隊派遣に反対する文章を書いている▼危険だから反対するのではない。日本国家および国民にとって何の得もないし、この年に米国が始めたイラク戦争には何の「大義」もない、と。翌年、橋田さんはサマワにあった自衛隊の宿営地を訪れた後、銃撃されて亡くなった▼ここまで勢力を増した「イスラム国」の源流をたどるとイラク戦争に行きつく、との指摘が識者から出ている。フセイン政権崩壊後、激しい宗派対立と反米感情の高ぶりの中で過激な思想が育まれたという見方だ。邦人2人の人質事件の検証には、長期的な視点が必要と知らされる▼今回、日本政府の対応は適切だったか。当面の検証を試みる論戦が国会で始まった。2人の動画が公開される以前に十分な手を尽くしていたか。イスラム国と「闘う」周辺国に2億ドルを支援する、との首相演説の表現は妥当だったか▼長く人道支援のNGO活動に携わり、イラクやシリアをよく知る熊岡路矢(みちや)さんは、首相の中東歴訪と演説が彼らの行動を誘発したと見る。「軍事援助ではないといっても、応援には違いないと刺激してしまう」▼熊岡さんは同時に、自衛隊イラク派遣がイスラム世界の人々の日本に対する好感度を下げたことに注意を促す。03年までさかのぼった重層的な検証とせよ、との指摘にうなずく。