「民衆草案生きている」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2016年7月3日)から。

東京)声(9)元専修大教授・新井さん

新井勝紘さん=福生市

 ◆民衆草案生きている

 ◇元専修大教授・新井勝紘さん(71)

 竹製の箱に、風呂敷に包まれたひとかたまりの資料が入っていました。のちに「五日市憲法」と名付けられる資料です。1968年8月、五日市町(現あきる野市)の旧家の土蔵に、色川大吉教授のゼミで調査に行った時のことです。

 私は当時、大学4年生。最初は明治憲法か、ほかの私擬憲法の写しだと思っていました。しかし、調べるうちに204条に及ぶオリジナルの大作と分かり、「これは大発見だ」と。以来、日本近現代史の研究をしてきました。

 五日市憲法草案から見えるのは、明治憲法発布前の1880年代、人々がこの国のあり方を真剣に考え、議論していたということ。民間の独自の憲法草案は、私が確認しただけで約100。それらを無視して公布された明治憲法こそが「押しつけ憲法」でした。

 終戦の1年前に生まれた私の名前には戦勝祈願が込められています。明治憲法は軍部の横暴を許し、日本は戦争に突き進んだ。今の憲法には、五日市憲法などの流れをくむ民衆憲法の研究者の草案が生かされている。その憲法を変える覚悟が国民にあるでしょうか。今こそ憲法について真剣に考えなければいけません。

 (聞き手・高橋友佳理)

      *

 あらいかつひろ 東京経済大で色川大吉教授(当時)のゼミに所属し、五日市憲法草案の発見に立ち会った。町田市史編纂(へん・さん)室に勤め、市立自由民権資料館の創設に携わった。国立歴史民俗博物館助教授、専修大教授などを経て、現在は専修大学史編集副主幹。

      ◇

 ■改憲問題 自民党は野党時代の2012年に憲法改正草案を発表。自衛隊を「国防軍」に変え、大災害や有事(戦争)の際に政府に強い権限などを与える緊急事態条項や、家族の尊重を書き込んだ。今回の参院選では、憲法改正の国会発議に必要な3分の2の勢力が形成されるかどうかも焦点。