THE RC SUCCESSIONの「76-’81&’88〜SOULMATES」

SOULMATES


 アコースティックギターウッドベースの3人組のRCサクセションは、高校生のときにライブで見たことがあった。
 「2時間35分」「シュー」「僕の好きな先生」を聞いたのを鮮明に覚えている。それが初期のRCサクセションだった。泉谷しげるもデビューした頃のことで、それで、しばらくしたら「僕の好きな先生」が大ヒットしていた。
 RCサクセションは、とてもユニークで面白いバンドだったけど、加川良の「教訓」や遠藤賢司の「満足できるかな」は愛聴したが、RCサクセションのレコードを買ったことはなかった。なんというのか、面白いが、純粋に好みの問題として、何度も聞きたくなる「音楽性」がなかった。というか、彼らの音楽性を俺が理解できていなかったと言うべきなのだろう。これは単なる好みの問題に過ぎない。自由な姿勢と批判的な歌詞にはかなり共感もしたのだが。
 CDの時代になっても、RCサクセションのCDを買ったことはなかったが*1、「SOULMATES」は、購入し、何度も聞いた。
 なんといっても、「トランジスタ・ラジオ」が好きだったからだ。
「SOULMATES」には、「トランジスタ・ラジオ」のロング・ヴァージョンが入っている。
 「トランジスタ・ラジオ」は、高校時代の俺の日常風景を歌ってくれた唄だったから、「トランジスタラジオ」が好きだった。

 Woo 授業をサボって
 陽のあたる場所に いたんだよ
 寝ころんでたのさ 屋上で
 たばこのけむり とても青くて

 内ポケットにいつも
 トランジスタ・ラジオ
 彼女 教科書 ひろげてるとき
 ホットなナンバー 空にとけてった

 かけだし英語教師になった頃にカラオケで歌ったこともあったが、都立高校文化を全く理解できていない、世代のかなり違う体育科の先輩教師から、選曲が全く理解できないという顔をされたことがある。世間知らずだったから、場を間違え、選曲に失敗してしまった。
 忌野清志郎は、日野高校出身だが、都立高校文化というのがあったと、TBSラジオの「坂本龍一が語る忌野清志郎」という、ある種の追悼番組で、元筑紫哲也NEWS23デスクの金平茂紀さんが坂本龍一さんと対談したときに、そんなことを言っていた。
 高校時代の俺の頭は、アメリカ合州国の西海岸の音楽文化と、共生していた。「トランジスタラジオ」が歌っている世界そのものだった。ビデオも電子メールもインターネットもない時代だったが、ヴィニールレコードとラジオだけで世界とつながっていた。10代だったから、金はなくても、面白い同世代に共感できる感性だけはもっていた。

 2009年5月に忌野清志郎さんが他界してから、早いものでもうすぐ7年になる。

 「SOULMATES」の中の「わかってもらえるさ」の自己肯定感とパーソナル感。ウッドベースのうねり。
 「君が僕を知っている」のセクシーさとユーモア。おそらくは仲井戸麗市の、歌うようなギターの素晴らしさ*2
 「やさしさ」の葛藤とユーモア。
 「あきれて物も言えない」のもっている毒。清志郎の表現力豊かなヴォーカル。
 「いい事ばかりはありゃしない」の日本語のわかりやすい発音。
 「ヒッピーに捧ぐ」の悲しみと怒り。美しさ。
 「雨上がりの夜空に」のセクシーさとユーモア。ホンキートンク調のピアノ。
「スローバラード」の若さ。

 「SOULMATES」は好きなアルバムだ。
 歌詞も面白いが、音楽のリズム感がすばらしい。そして、なんといっても個性的でノリのいいヴォーカル。

 忌野清志郎の個性は、「それでいいのだ」という赤塚不二夫に通じるいさぎよさがある*3
 野暮ったさとかっこよさ。そしてセクシーさ。怒りとたっぷりのユーモア。だからこその美しさ。
 高校時代に見たRCサクセションのコアな部分は変わっていないが、忌野清志郎という個性の成長が聞けるSOULMATESを、俺はけっしてRCの収集家とは言えないけれど、尊敬しつつこれからも聴いていくだろう。
 The RC Successionが変わったというより、これは、俺がユーモアやセクシーさのある音楽を許せるようになったからなのではないか。変わったのは俺のほうなのだろう。忌野清志郎の本音の唄づくりが、俺の仮面を剥ぎ取らせたに違いない。そんな気がする。

*1:忌野清志郎の海外録音盤の「Razor Sharp」のCDは愛聴したことがある。

*2:忌野清志郎仲井戸麗市が野外で演奏しているテレ東で1994年に放映された番組をYoutubeで観ることができるが、アコースティックギターで二人でやっている「君が僕を知っている」がすばらしい。

*3:「キモちE」なんかは、赤塚不二夫ボブ・ディランのRainy Day Women #12&35)をごたまぜにしたようなところがある。坂本龍一氏が、「キモちE」を叫び続けても、普通はそれでは歌にならないというようなことを先の番組で言っていたのが面白かった。