以下、朝日新聞デジタル版(2018年12月6日20時14分)から。
安倍晋三首相が出席した6日の参院法務委員会。政府はこれまでの答弁を繰り返すばかりで、野党も攻め手を欠いたまま。およそ2時間の審議は、新味に欠けるやりとりばかりで埋め尽くされました。
なんでこれほど空疎な論戦が続くのでしょうか。実は、入管法改正案の条文には、雇用契約や受け入れ機関の基準など外国人労働者の受け入れにかかわる根幹の部分が書き込まれていません。成立後に、役所が裁量で決めることができる「省令」で定めるからです。受け入れる外国人の「上限値」となる業種別の見込み数についても、改正法の成立後に定める「分野別運用方針」に盛り込まれます。
入管法はこれまでも、すべての在留資格の詳細な運用方針は、法律ではなく省令で定めてきました。ただ、今回は訳が違います。改正案は外国人を「労働者」として正面から受け入れます。「国際貢献」という建前の裏で、30年近く技能実習生や留学生を低賃金で働く人材、いわば「単純労働者」として使ってきた政策を大きく転換するのです。にもかかわらず、法案の詳細が決まっていないことを受けて、政府は国会審議で「検討中」を繰り返してきました。
中身が生煮えのままですが、政府・与党は、あす7日に法務委員長の解任決議案などを否決したうえで、同日中に参院本会議で改正法を成立させる考えです。
そうなればあと半年もしないうちに、新しい在留資格の外国人労働者がやってくることになります。政府は、どうしてこれほどまでに急ぐのでしょうか。
その理由をたどると、人手不足の解消を求めて首相官邸に「早期の成立」を要望する経済界の存在に行き着きます。10月の自民党法務部会では、来年4月の制度導入をめざす理由を問われた法務省幹部が「総理や官房長官の指示」と答えて、失笑を誘う場面もありました。
今国会中の成立を確実にするため、法案の詳細にはあえて踏み込まない。議論の深入りは避ける。野党が「白紙委任しろというのか」と批判しても、最後は数の力で採決を強行する。これが、担当記者として見た、歴史的な政策転換に対する審議の実態です。
首相官邸には、もしかしたら来年の統一地方選や参院選が念頭にあるのかもしれません。「カネ」を握る経済界に大きな「貸し」ができるのだから、さぞ心強いことでしょう。でも、これは人にまつわる法案です。やってくるのも、迎え入れるのも人間です。「失敗したらやめる」とは簡単にいきません。
その覚悟が、政府・与党にはどれほどあるのでしょうか。今国会の審議をずっとウォッチしていますが、空しさばかりが募ります。(内山修)