「ピースボート、100回目の船出 35年で7万人、世界とつなぐ」

 以下、朝日新聞デジタル版(2018年12月26日16時30分)から。

 国際交流NGO「ピースボート」=キーワード=の船が26日、100回目の航海に出発した。平和を旗印に世界を巡って35年。乗客はのべ7万人を超え、国連と連携して環境問題にも取り組むなど活動の幅は広がった。「35年続くとは思わなかった。互いを知ることが平和の一歩です」。3人の共同代表の1人で、創設メンバーの吉岡達也さん(58)は話す。

 ピースボートの最初の航海は1983年9月。前年、歴史教科書の検定で日本の「侵略」が「進出」と書き換えられたと報道。アジア諸国が抗議していた。早大生だった吉岡さんや辻元清美さん(現衆院議員)らは「戦禍の地を訪ねたい」と客船を2週間借りた。159人が乗り、硫黄島、グアム、サイパンを巡った。

 地球一周が始まったのは90年。10回目の航海だった。そのさなかに湾岸戦争が始まり、アラビア海を飛ぶ米軍の戦闘機に「NO WAR」の横断幕を広げた。18回の95年、フランスが地下核実験を再開。各寄港地で抗議した。「ひとごとと思わず、国際紛争も身近に考える機会になった」と、共同代表の野平晋作さん(54)も言う。

 ■著名人も協力

 活動に多くの著名人も共鳴した。2回目の84年、寄港した中国・上海のイベントで手塚治虫さんが中国の漫画家らと交流。キューバカストロ前議長らも船や寄港地で面会した。船内で地域事情や社会文化などを無償で講演する「水先案内人」は、作家の灰谷健次郎さん、作詞家の湯川れい子さん、登山家の田部井淳子さん、EXILEのUSAさんやジャーナリストら様々な分野の著名人や専門家が務めた。

 ■乗客層広がる

 乗客は初めのころ、10〜20代が半分を占めていたが、94年に日本発着の地球一周(16回)が始まると、退職世代の人気も集めた。1人参加が多く、乗客が自ら講座や行事を企画し、交流を深めていく。海外からの参加も増え、今年はアジア諸国の人が3割を占めた。

 共同代表の川崎哲さん(50)は、昨年のノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の国際運営委員も務めている。川崎さんは「共に考え、行動することで世界は変えられる」。吉岡さんは「船旅は人生も豊かにしてくれる」と意義を語る。(中山由美

 ◆キーワード

 <ピースボート> 3カ月かけて世界一周をする航海を年3回、約2週間〜1カ月の航海を年1〜2回実施。近年は毎回満席という。航海には「オーシャンドリーム号」(3万5千トン、乗客1422人)を借りて使っているが、2020年に風力や太陽光を利用した新船「エコシップ」が誕生する予定で、支援者を募っている。