森友学園大阪市)への国有地売却問題が発覚して2年。補助金詐欺事件の初公判を1カ月後に控える中、学園前理事長の籠池泰典被告(66)が取材に応じた。土地取引にどんな狙いで臨んでいたのか。それが財務省の異例ずくめの対応にどうつながったのか。一連の問題を当事者の視点で語ってもらった。

「昭恵さん、雰囲気バチッと合った」 

森友学園大阪市内で幼稚園を運営していた。戦前・戦中の「教育勅語」を園児に素読させる保守的な教育で知られていた。幼稚園の保護者を通じて知り合ったのが安倍晋三首相の妻、昭恵氏だった〉

 僕は2006年に第1次政権で「愛国心郷土愛」を盛り込んだ教育基本法改正を成し遂げた安倍首相を尊敬していた。昭恵さんと知り合ったのは2011~12年ごろ。すごく庶民的な方で、雰囲気はバチッと合った。酸いも甘いもかみ分けて、国民である私たちに接してくださっている。お付き合いができて、それはうれしかった。常に安倍首相と一緒にいらっしゃるご夫人だから。

「土地安くするのが国家のためと訴えた」 

森友学園は2013年9月、「日本初で唯一の神道の小学校」の建設に向け、大阪府豊中市の国有地の取得を財務省近畿財務局に要望した〉

 小学校、いずれは中学校もつくって、いい人材を育てたかった。昭恵夫人を通じて、学校の理念を安倍首相が認識されたらいいなとも思っていた。

 経営が安定するまで当面は土地を借り、その後購入する。それが森友学園の希望だった。交渉は難航した。

 森友学園の幼稚園は知られていたが、小学校の運営ができるかどうか近畿財務局にはわからない。こちらの熱意と本気度を見せるしかなかった。「借地は何でこんなに高いのか」「安くしてくれ」とどんどん本音で勝負した。義務教育の小学校なのだから、土地を安くし、学校が運営できるように協力するのが国家社会のためだと訴えた。

〈2014年4月28日、昭恵氏を現地に案内して一緒に撮った写真を近畿財務局に示した〉

 「いい土地ですから前に進めてください」と昭恵さんに言われたと財務局に伝えた。そのときの写真を見せてほしいと言われたので、たまたま持っていたものを出した。「コピーしてもいいですか」と聞かれたから「いいですよ」と答えた。

〈その35日後、近畿財務局は「売り払いを前提とした貸し付けに協力させていただく」と森友学園に伝えた。財務省本省も2015年4月、10年の定期借地という特例的な契約を認めた。「特例」の意味について、財務省理財局の佐川宣寿(のぶひさ)局長(当時)は「通達上3年の貸付期間を10年とするため、本省の特例処理が必要だった」という説明で、忖度(そんたく)を否定している〉

 近畿財務局に熱意や信用力は認識してもらっていたと思う。写真は最後のとどめ。そこから財務省のギアがひとつ変わったんじゃないですか。ガッと。昭恵さんは時の首相夫人。名前を出すことで、何らかの動きはあるだろうと認識していた。こうした土地取引に前例があるかどうかは知らなかった。財務省が特例的なことをしてくれたことに今は感謝している。

「大臣経験者の力、それなりにある」

〈交渉の過程では、大臣経験者ら複数の政治家側に働きかけを依頼した。政府は「不当な働きかけは一切なかった」と影響を否定している〉

 鴻池祥肇先生(元防災担当相、故人)や平沼赳夫先生(元経済産業相)のところにいった。僕も奈良県で役人をやっていたからわかる。政治家の照会や口利きの威力は戦艦大和の巨砲みたいなもの。大臣経験者とかの力はそれなりにある。財務省は、物事を真っすぐに進めるだけではなく、変化球を投げないといけないのだと分かったはずだ。

近畿財務局が予定していた貸付料は年約3300万円。森友学園が折り合わず、不動産鑑定をやり直して2015年5月に年約2730万円で賃貸契約を結んだ。売却を前提とした賃貸は、過去5年の同種取引で例がない契約だった。昭恵氏が小学校の名誉校長に就いたのはその年の9月だ〉

 本当は安倍首相に名誉校長になってほしいと思っていた。それが難しくても、昭恵夫人なら同等だ。事前に相談していなかったが、幼稚園に講演に訪れたときに受けてくださった。国もあうんの呼吸で動いてくれるようになり、僕たちと近畿財務局は一体で学校を造っているように思えた。その後ろには昭恵さんがいて、さらに安倍首相がいらっしゃると感じていた。

“ゼロ回答”のファクス「僕からすれば100%の内容」

〈その秋、籠池前理事長は昭恵氏付の政府職員に財務省への問い合わせを依頼した。定期借地の期間を10年から50年に延ばすことなどを求めた。財務省は「難しい」などとし、職員がファクスで籠池前理事長に回答した。菅義偉官房長官は「ご希望に沿うことはできないようだ」との記載があるとし、「要望をきっぱり断っていてゼロ回答」と説明している〉

 財務省の借地料が高い。これを何とかしてくださいと一番お願いしたかった。でも、僕からすれば、職員からのファクスは「ゼロ回答」ではなく「100%」の内容だった。「引き続き見守ってまいりたい。何かございましたらご教示ください」と書いてあったから。これで財務省は動かざるを得ない。必ず良い方向に向かうと考えた。

「室長の異動ない事確認、焦点定まった」

〈校舎建設が始まった後の2016年3月、学園は「国有地からごみが見つかった」と近畿財務局に連絡。籠池前理事長は本省に交渉に行った。相手は、昭恵氏付の政府職員の問い合わせに対応した国有財産審理室長だった〉

 政府職員の問い合わせに対応したのがその室長だったことは知っていた。異動していないことを確認し、この人に会おうと焦点が定まった。この件に昭恵さんの存在があることをよく分かっている人だと考えた。

〈ごみ撤去費を値引いた額で国有地を買うと要望した〉

 建設業者が「このままでは工事ができません」と言ってきた。比較的浅いところにある廃棄物の撤去工事は前年12月に終わっていた。ごみがまだ残っているなんて、学校を開設できないじゃないかと訴えた。ごみを取って欲しいけど、国に解決策はなかった。だから購入しようとなった。買うなら安い方がいい。こんな不埒(ふらち)なことで学校ができないなんて社会問題。損害賠償を求めないといけないと思っていた。

8億2千万円の値引き「かなりの厚遇」 

森友学園は2016年6月、1億3400万円で国有地を購入した。鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみ撤去費約8億2千万円などが値引きされた。国側は現地確認などを踏まえて撤去費を算定しており、「適正」と説明している〉

 大幅値引きはありがたいことだった。年約2700万円の賃料は高かった。分割払いも認められ、1年の支払いが約1100万円になった。かなりの優遇。よく対応していただいたなと感謝の気持ちだった。

 一連の取引で、神風は1回ではなかった。ぴたっとは終わらない。神風はずっと吹き続けていた。

     ◇

 〈森友学園をめぐる補助金詐欺事件〉 学園前理事長の籠池泰典被告と妻の諄子被告が2017年7~8月に大阪地検特捜部に逮捕、起訴された。起訴内容は、設計業者らと共謀して小学校の建設工事費を水増しした契約書を提出し、16年2月に国の補助金計約5644万円▽運営する幼稚園などで11~16年度、勤務実態のない教員名を使い、大阪府・市の補助金計約1億2千万円――を詐取したというもの。2人は18年5月に保釈された。