私立校の教員が、待遇の改善を求めてストライキを起こす動きが相次いでいる。国は教員の働き方改革を進めるが、対象は公立校のみ。私立校での働き方は何が問題になっているのか。

 

 ■早朝あいさつ儀式

 「早朝の理事長あいさつ儀式をストライキ中!」「長時間労働・残業代不払いを改善してください」。1月8日、午前6時半。東京都千代田区の私立正則学園高校の校門前では、同校の教員たちが要望を書いた横断幕を掲げた。

 同校では教員が毎朝6時半までに出勤し、理事長室の前に1列に並んだ後、1人ずつ理事長にあいさつするのが慣例。同校教員の有志が加入する「私学教員ユニオン」によると、この「あいさつ儀式」は30年以上前から続いているといい、参加しないと管理職から問いただされ、「評価に影響する」と言われていたという。

 同校は当初「強要していない」と説明していたが、教員たちは早朝あいさつを「事実上強制」と受け止めてきた。同校の男性教員は「生徒のために時間をつかい、いい授業をしたい。毎日夜遅くまで残業で体力的にはきついが、省ける無駄は何かと考えると、早朝あいさつだった」。

 私学教員ユニオンによると、その後学校法人側と団体交渉を行い、早朝の理事長へのあいさつ儀式の廃止や、減額されていた正規教員の賞与支払いなど、要求の一部は認められたという。

 

 ■国改革は公立のみ

 一方で、東京都文京区の京華商業高校の教員も1月18日、非正規雇用の「雇い止めは不当だ」として、朝の登校指導の時間に抗議のストをした。

 残業時間の上限を「月45時間、年360時間」と定めるなど、国が議論を進める「教員の働き方改革」の対象は公立校教員だ。私立校教員の場合は、経営者の方針や校風によって待遇や環境に大きな差がある。非正規や専任など雇用形態も経営者と取り決める。給与も、公務員より低い学校から年間1千万円という学校まで様々だ。

 私立校経営の調査研究を行う「公益社団法人私学経営研究会」が2018~19年、大学、高校など私立校846校(回答数181校)に実施した調査では、教員に時間外手当を「支給している」が22校あった一方で、「支給しておらず、今後支給する予定はない」との回答も50校あり、待遇にばらつきが見られた。

 

 ■トップが長年同じ

 教員の過労死問題に詳しい松丸正弁護士は「私立校教員は労働基準法で守られているはずなのに、教員特有の勤務時間の感覚が浸透してしまっている」と指摘。「私立校の場合、長年管理職や経営者が変わらず、過酷な状況が続く場合も多い」と話す。「心身の健康や適切な待遇があってこそ、いい教育につながる。生徒のためという生きがいに取り込まれず、勤務時間を記録して労働基準監督署に相談するなどしていい」

 教員の勤務環境に詳しい油布佐和子・早稲田大教授(教育社会学)は「教員に労働者としての意識がなければ将来社会で働くであろう子どもたちに労働者の権利を教えることはできない。沈黙したままであれば誤ったメッセージを子どもたちに与えてしまう。労働者の権利は守ってもらえるものではない。教員も声を上げることが重要だ」と指摘する。(円山史、貞国聖子)