秋田公立美術大学(秋田市)の今春の卒業式で、卒業生代表の学生が謝辞で陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の話題に触れようとしたところ、事前に学生課長が「内容にデリケートな部分がある」と指摘した。学生はこのくだりを削除。大学側は後日、「削除を求めるように聞こえたならば申し訳ない」と女子学生に謝罪した。
大学は、政府がイージス・アショアの配備候補地とした陸上自衛隊新屋(あらや)演習場と同じ新屋地区にある。配備に住民の反対は強い。
3月21日の卒業式で卒業生代表として謝辞を述べる女子学生(22)は原稿を作成。「常設型迎撃ミサイル基地の配備計画が持ち上がるなど、在学中に地域住民や大学関係者にとって重要な問題が起こったことも事実。新屋という場所に暮らし、学ぶ学生にとって、こうした問題は決して無視できません」「学生および地域の皆様が平和な生活を過ごせるよう願っています」と記した。配備計画の賛否に触れず、「考えることが大切という思いを込めたかった」と言う。
式典で読み上げる紙に印刷するため、前日の20日夕、大学事務局へ文章をメールで送信。夜、学生課長から電話で「カットできないか」と言われ、理由を聞くと、「政治的でデリケートな問題」と説明されたという。さらに「上と相談して決めるが、考えてほしい」と言われたという。学生は1時間ほど考え、「勉強不足、伝える技術不足かもしれない」とも思い、該当部分の削除を申し出た。
一方、大学側は「デリケートな部分がある」と伝えたことは認めつつ、「削除してほしいとは伝えていない。本人の判断」と削除の要請を否定。学生課長は大学側に「住民や学生の中に色々な思いがあり、卒業生代表として意見を発信されることにちゅうちょした」と話したという。
事後に経緯を知った霜鳥秋則学長は取材に「表現の自由があり、どうしても言いたいことにストップをかけることはない。だが、色々な意見があることについては慎重に考えた方がいい。(学生は)大人の判断をしたのだと思う」と述べた。一方で「強制的に聞こえたならば申し訳ないと思う」と話し、28日に自ら電話で学生に謝罪したという。
学生は「タブー視はおかしい。自分ももっと議論をしてきたらよかったと思う。在学生は身近な問題に目を向けて学びや活動につなげてほしい」と話した。(石川春菜)
謝辞から削られたイージス・アショアに関する文章
すでに報道等で明らかなように、大学からも近い、住宅や学校が密集する新屋地区に常設型迎撃ミサイル基地の配備計画が持ち上がるなど、私たちの在学中に地域住民や大学関係者にとって重要な問題が起こったこともまた事実です。これから卒業する私たちを含め、新屋という場所に暮らし、学ぶ学生にとって、こうした問題は決して無視することは出来ません。私たち卒業生は、今後も秋田公立美大の学生および地域の皆様が平和な生活を過ごせるよう、心から願っています(原文のまま)。
法政大学の山口二郎教授(政治学)の話
卒業式は参加者が自発的に集まる場ではないので、特定の政治的主張を述べることは不適切だろう。ただ、賛否両論があることを前提に地域の将来をみんなで考えようという発言まで封じれば、議論すること自体を否定することになる。このケースは、地域を思う学生の真摯(しんし)な発言を抑えた形で、民主主義に反していると思う。