以下、朝日新聞デジタル版(
新たに始まる制度で、日本の各地にさらに多くの外国人が暮らすことになる。朝日新聞が実施したアンケートからは、生活支援を担う自治体が、今後の負担増加を懸念する様子が見てとれる。外国人住民の多様な相談に耳を傾けてきた都市部の窓口でも、今なお模索が続いている。(久保田一道、井上亮)
アンケートで浮かぶのは、「未知の領域」に身構える自治体の困惑ぶりだ。
1日に導入される新たな在留資格「特定技能」は、技能実習生と違い、転職や転居ができる。このため、賃金水準が低い地方を避け、大都市に外国人が偏る恐れがあると指摘されている。居住の自由が認められたことが「何らかの問題をもたらすか」との質問には、38・6%が「はい」と答えた。
大都市からは「東京への集中が懸念される」(東京都板橋区)、「よりよい待遇を求め、外国人材が大都市圏へ集中する可能性がある」(福岡市)との声が出た。都市郊外の自治体にも心配がある。電車で都心まで約30分の千葉県松戸市は、「家賃が比較的安い大都市の通勤圏に集中すれば、行政サービスや生活インフラの対応が追い付かなくなる恐れがある」という。
今後、外国人が増えた場合、「どの分野に懸念があるか」との質問(複数回答可)に対しては、「災害時の連絡・広報」、「日本語教育」、「子どもの教育」、「ゴミの捨て方や騒音など住民との摩擦」などの選択肢が上位を占め、幅広い課題に対応できるか不安を抱えていることが明らかになった。
そもそも外国人の受け入れについて、国の目指す方向性が明確でないとの批判もある。東京都世田谷区は「外国人の生活について国がどんな支援をするのか、方向性がクリアになっていない。各地の課題を集約する連絡会のような仕組みをつくるべきだ」とする。在日コリアンなどが多く住む川崎市は、2005年に外国人との共生に向けた独自の「推進指針」を策定した。国に対しても「施策を推進する上での基本法の制定」を求める。
窓口設置、高いハードル
外国人を支える場として期待されるワンストップセンター。入国管理局と自治体が協力して運営する同様の窓口は現在、東京都新宿区と浜松市、さいたま市の3カ所にある。共生の先進地でも手探りが続く。
外国人の姿が目立つ新宿区歌舞伎町。複合ビルの一室に二つのデスクが並ぶ。同区の「しんじゅく多文化共生プラザ」内にあるワンストップ型の受付だ。対応言語が書かれ、アジア各地の言葉が飛び交う。東京入管が所管する窓口は在留資格やビザ申請などの相談に応じ、生活一般の悩みを受ける区側と連携する。
入管側への来訪は年500件弱だが、電話での相談は区外からも寄せられ、5千件を超す。「病気になり在留期限が切れた」「配偶者の暴力がひどい」。相談内容を通報することはなく、助言に徹する。「悩みを放置するのが最もよくない」と東京入管の担当者は言う。
新宿区は住民の約8人に1人が外国人という土地柄で、区の窓口はネパール語やミャンマー語など各言語に対応する。繊細で個人的な相談に寄り添うには高い会話能力が求められる。「少数言語でもネイティブ話者の相談員が集められればいいが、自治体によってはハードルが高いのでは」と担当者は懸念する。
会話と問題解決力の双方を相談員が併せ持つとは限らず、適切な組織に「つなぐ力」も求められる。「イスラム教に沿った子どもの教育をしたい」といった宗教や文化に関わる相談は、同国人コミュニティーへの相談を勧めることもある。
「真に必要なサービスに結びつけるにはどうすればいいか、まだ模索している。自治体で抱え込まず、地域コミュニティーや国際交流団体などと連携することが必要です」と同プラザの鍋島協太郎所長は話す。
網の目の連携不可欠
この春、外国人労働者の受け入れを広げる新たな制度が始まり、日本は「事実上の移民国家」に踏み込む。これまでのように、外国人が多く住む自治体の自助努力に頼って支援を続けるのには限界がある。
国の交付金でワンストップセンターの整備を進めるのは一歩前進だが、枠組みを作って自治体に丸投げするだけなら同じ轍(てつ)を踏むことになる。現に自治体アンケートでは「国はもっと関与を」という声が目立つ。
その半面、新設される出入国在留管理庁は不正を取り締まる立場にあり、外国人の側に立った支援を進められるのか、疑問も残る。
外国人を社会の一員として迎えるには、地域住民や外国人コミュニティーをつないだ「網の目」の連携が欠かせない。共生社会への道は、あなたや私、すべての人と組織が「自分ごと」と考えることから始まる。(編集委員・真鍋弘樹)
◇
アンケートの対象とした自治体は以下の通り。
【北海道】
【宮城県】
【茨城県】
【群馬県】
【東京都】
新宿区、豊島区、荒川区、港区、台東区、北区、中野区、江東区、江戸川区、渋谷区、葛飾区、墨田区、板橋区、足立区、大田区、世田谷区、練馬区、杉並区、品川区、福生市、八王子市
【千葉県】
【埼玉県】
【神奈川県】
【静岡県】
【長野県】
【愛知県】
名古屋市、高浜市、知立市、碧南市、小牧市、豊橋市、豊田市、岡崎市、飛島村
【岐阜県】
【三重県】
【大阪府】
【兵庫県】
【京都府】
【岡山県】
【広島県】
【福岡県】
【沖縄県】