以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月11日5時0分)から。
陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」をめぐり、防衛省の失態が相次いでいる。配備の「適地」とした根拠を示す報告書に誤りが発覚し、住民説明会では職員が居眠りする場面もあった。配備の候補地では不信感が広がっている。
■秋田「配備ありきでは」
10日、秋田市であったイージス・アショアをめぐる防衛省の住民説明会は、冒頭から荒れた。「いい加減にしろ」と怒号が飛び、伊藤茂樹・東北防衛局長のマイクを、参加者の男性が取り上げる場面もあった。
防衛省は、イージス・アショアの新屋(あらや)演習場(秋田市)への配備に関し、他に候補地がないか青森、秋田、山形3県の国有地計19カ所を調査。うち9カ所は、弾道ミサイルを追尾するレーダーを遮ってしまう山が周囲にあるという理由で「不適」としていた。
ところが、その根拠である山頂を見上げた「仰角」が、いずれも実際より大きく記されていたことが判明。秋田県男鹿市では、西に位置する本山の仰角を15度としていたが、実際には4度しかなかった。地元紙が5日に報じ、与野党の県議・市議から「『新屋ありき』で進められたのではないか」「数値の改ざんにしか聞こえない」などの疑念が噴出した。デジタル地球儀「グーグルアース」を使用し、山の縮尺が縦方向に拡大されていることに気づかず、実際とは異なる角度を記載していたという。
防衛省幹部は県議会や市議会で「調査全体の信頼性を失墜させかねない。大変申し訳ない」と陳謝した。
さらに8日の住民説明会で、防衛省職員が居眠りをしていたことが発覚。岩屋毅防衛相は10日、「緊張感を欠いた誠に不適切な行為だった」。菅義偉官房長官も会見で「いっそう緊張感を持ってしっかり対応してほしい」と釘を刺した。
不信感は、もう一つの配備候補地、陸上自衛隊むつみ演習場を抱える山口県萩市と隣接する阿武町にも広がる。
報告書の誤記載について萩市の藤道健二市長は「調査に対する信頼が損なわれることにもなりかねない」とコメント。阿武町の花田憲彦町長は取材に「故意に誤ったとは思いたくないが、すべてのデータについて、大丈夫ですかという話になる」と述べた。計画に反対する市民団体には、同町の有権者の55%余りが加入する。市民団体の吉岡勝会長は「むつみ演習場についても、全てのデータが信用できない。もう一度、全ての調査をやり直すことも必要じゃないか」と話す。(神野勇人、林国広)
■国側、「適地」変えず
イージス・アショアは、弾道ミサイル発射が相次ぐなど北朝鮮情勢が緊張していた2017年12月に、政府が導入を決めた。
防衛省は昨年6月、「レーダーが遮られず、最適地と判断した」などとして新屋演習場、むつみ演習場を候補地にすると地元に伝えた。新屋演習場への配備を巡る報告書では、秋田市以外の19の国有地について、平坦(へいたん)で面積1平方キロメートル以上▽日本海側▽レーダーの障害物がない▽電力・水道・道路などのインフラ環境が存在――などの条件を検討し、いずれの代替地も「不適」と評価していた。
9地点で仰角が過大に記載されていたことが判明したが、岩屋防衛相は「いずれもインフラや機能、役割の観点から配備候補地にはなり得ない」と説明。新屋演習場が「適地」という結論は変更しない考えを示している。測定にグーグルアースが使われたことは「断面図を得て正確なデータを得たいということだったようで、手法自体に問題はなかった」という認識を示した。
これに対し、佐竹敬久・秋田県知事は10日の県議会で「話は振り出しに戻った。防衛省の真摯(しんし)な姿勢が見られない現状では、(国が取得を提案する)県有地の提供について検討の段階には至らない」「防衛省が本事案に真剣に臨んでいるとはとらえがたい」などと防衛省を批判した。(増田洋一、伊藤嘉孝)