以下、朝日新聞デジタル版(2019年5月20日21時50分)から。
安倍晋三首相が政権に復帰して6年半。権力が放つ強い磁力に吸い付けられるように、首相官邸の意向が霞が関で忖度(そんたく)される構図が強まっている。それが社会に影響を及ぼし、さらに政権基盤を強める「磁界」を形成していく――。長期政権がもたらす政治、社会の変容について、夏の参院選を前に考える。
首相、事故現場にスーツで 炉内の燃料、取り出し方針は未定
世界最悪レベルの事故を起こした東京電力福島第一原発。4月14日、メルトダウンした1~3号機から100メートルほど離れた海抜35メートルの高台に、安倍晋三首相は防護服とマスクをつけず、スーツ姿で降り立った。
東電側から廃炉作業の現状について説明を受けた首相は「防護服に身を固めることなく、スーツ姿で見られるようになった。着実に廃炉作業も進んでいる」。視察後の作業員らとの懇談でも「5年前に視察した時は防護服に身を固めた。今回はスーツ姿で視察ができた」と繰り返した。
5年半ぶりとなる原発視察。首相周辺は、防護服やマスクをつけない姿をメディアに取り上げさせることで見栄えを良くし、「復興の進み具合をアピールすること」を狙ったと認める。
だが、1~3号機周辺の屋外で、防護服を着ないことが許されるのはバスの車内と視察用の高台だけで、高台視察はわずか6分ほど。高台の放射線量は毎時100マイクロシーベルト超と高く、長居は許されない。
スーツ姿が可能になったのは、飛び散った放射性物質が舞わないように地面がモルタルなどで覆われたことが主因で、廃炉作業の主眼である燃料デブリは炉心に残ったまま。周辺の線量は極めて高く、取り出し方法すら決まっていない。
首相が13年の東京五輪・パラリンピックの招致演説で「アンダーコントロール(管理下にある)」と安全性を強調した第一原発の汚染水やその処理水は減るどころか、いまなおたまり続けている。
(後略)
石塚大樹、石塚広志、太田成美