「投資失敗でも役員報酬満額…92億円赤字の農水ファンド」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年6月17日17時44分)から。

 投資が失敗続きの農林水産省所管の官民ファンドが、役員の報酬や退職慰労金を運用成績に左右されない全額固定額にしていることがわかった。常勤役員の報酬は毎年2千万円ほどだ。退職慰労金は、6億円超を投融資した会社が経営破綻(はたん)した案件を扱った役員でも満額の1400万円が支払われる。結果責任を問わない報酬の仕組みに疑問の声が出ている。

 このファンドは農林水産物の生産から加工、流通・販売まで手がける「6次産業化」を後押しする目的の「農林漁業成長産業化支援機構(A―FIVE)」で、2013年1月に設立された。大半を政府が出資した319億円の資金を元手に、株式を購入するなどして企業を支援しているが、今年3月末時点で92億円の累積赤字を抱える。

 昨年10月には、国産のブランド農産物の海外販路開拓を進めていた東京都内の会社が破綻し、出資金や返済の優先順位が低い「劣後ローン」の計約6億5千万円の多くが焦げ付いた。この案件を担当していたA―FIVEの役員は今月下旬に退任するが、1400万円の退職慰労金は満額支払われる予定だ。

 吉川貴盛農水相は、14日の閣議後会見で「退職慰労金は職務執行に対する報酬との性格で、個別の投資の成否に左右されるものではない」と理由を説明した。

 だが農水省によると、A―FIVEには退職慰労金だけでなく、毎年の役員報酬にも運用成績と連動する部分がない。常勤役員(今年3月末時点で3人)の報酬は年2千万円ほどで、全額固定額だという。「投資の回収に長時間がかかり、業績連動になじまない」(担当者)とする。

 ある民間ベンチャーファンドの社長によると、民間ファンドの役員報酬は、一般的にファンドの株で支払われるなど業績連動部分が大きい。報酬の9割が業績連動分のケースもあるといい、A―FIVEについて「結果が最優先のファンドの世界で、信じられない仕組みだ」と指摘する。

 A―FIVEをめぐっては、今年度の投資額を前年度の9倍となる110億円とし、今後8年間で計700億円を投じる計画を立てたことが判明。累積赤字の返済に向けて投資先を増やすとしているが、損失が拡大し、国民負担が増える恐れもある。(大日向寛文)