以下、朝日新聞デジタル版(2018年6月2日05時05分)から。
学校法人「加計(かけ)学園」の愛媛県今治市への獣医学部新設で、県文書に書かれた加計孝太郎理事長と安倍晋三首相との面会は、実際はなかった――。学園のそんな説明に県が不信感を強めている。事務方トップの謝罪にも中村時広知事は1日、説明不足との認識を示した。面会がないとつじつまが合わない県文書の記載は複数ある。約31億円を投じる県は「最高責任者」の説明を求めていく構えだ。
発端は、愛媛県が5月21日に参議院に提出した文書だ。そのうちの2015年3月3日の県と学園との打ち合わせ内容を記したメモには、学部新設をめぐって15年2月25日に首相と加計氏が面会した、という学園の報告が記されていた。
提出翌日の22日、国会で過去の答弁との整合性を問われた安倍首相は面会を否定した。学園は4日後、「実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えた」と釈明するファクスを報道各社に送った。
「我々は公的機関。偽りなら説明、謝罪を」。中村知事は学園の対応を批判した。5月31日、学園の常務理事でもある渡辺良人事務局長が県庁を訪れ、首相と加計氏の面会について「たぶん自分が言ったんだろうと思う」と説明した。
報道陣には「その場の雰囲気で、ふと思ったことを言ったのではないか」と述べ、さらに詳しい説明を求められると「もう3年前の話ですから」「詳しい記憶はない」などと答えた。
台湾出張中の知事に代わって応対した県幹部によると、渡辺氏は間違いが「理事長と首相の面会」の部分だけと説明した。だが、面会は県文書に複数登場し、実際に面会がなかったのなら成り立たなくなる記述もある。
例えば渡辺氏の「面会発言」があったとされる15年3月3日のメモ。そこには県と学園の打ち合わせが「理事長と首相との面談結果等について報告したい」という学園の申し出で開催されたと記されている。面会がなかったなら、開催理由そのものが虚偽だったことになる。
また同月15日の市と学園との協議内容を記した文書には「面会を受け、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)から資料提出の指示」「理事長と総理との面会時の学園提供資料」と、面会があったことが前提の記述がある。この文書には文部科学省が専門家に意見照会した、とも書かれており、文科省はこの時期に照会したことを認めている。
県庁での渡辺氏の説明では、これらの矛盾は解消しない。台湾で1日、朝日新聞などの取材に応じた中村知事は「県議会や県民の納得を得られるものではない」と批判した。
さらに一般論と前置きして、「民間の会社がうそをついたと明言するなら、処分の対象となる。最高責任者が出てきて、公の場で説明する。それが最低条件だろう」と事実上、加計氏の説明を求めた。今後の県の対応については「(2日の)帰国後に県の担当者から詳細を聞いて決めたい」と述べた。(前田智、台北=西本秀)
崩れた信頼、県の補助金議論に発展
学部の誘致を後押ししてきた県が反発するのは、巨額の公費を出すからだ。
学部設置には、市が整備費の半額ほどにあたる約93億円を学園に補助する。県は覚書に基づき市を支援。17年度から3年間で市に約31億円を補助する。すでに約14億円が支払われた。
県は、学園が説明のないまま報道各社にコメントを送ったことに不信感を募らせる。県幹部の一人は「(補助金の)予算案を県議会に提出する際には、県としての説明責任をしっかりと果たしたい」と話す。17年度の補助金支出に賛成した県議は「学園への信頼が損なわれた。6月議会で支出の是非を問いたい」と話す。
国から学園側に私学助成が払われるため、国会でも野党が問題視。5月31日の参院文教科学委員会で、立憲民主党の神本美恵子氏は虚偽の説明が学部新設につながった可能性があるとして「国民には詐欺的行為に思われる」と指摘した。
ただ、私学助成の減額や不交付は「役員の逮捕や起訴」「偽りや不正の手段で設置認可を受けた」といった事態に限られる。現状では、学部新設の手続き自体に明らかな不正があったとは言えず、減額などの対応の可能性は低い状況だ。
立憲の辻元清美国会対策委員長は1日、自民党の森山裕国対委員長に対し、加計氏の証人喚問に加えて渡辺氏の参考人招致も要求した。(大川洋輔、根岸拓朗)