Solas の コンセプトアルバム "Shamrock City" (2013)は、アメリカに渡るアイルランド移民の苦闘の物語で、その登場人物はソーラスのリーダーであるシェイマス・イーガンの父親の曾叔父のマイケル・コンウェイ。彼はモンタナ州のビュートで銅山鉱夫として働き不慮の死をとげた。そのアルバム 冒頭の「イントロ」。
古めかしいレコードの異音の中で聞こえる英語が、よくわからない。これをChatGPTで検索できなかったので、懸命に聴いてみたが、"when you're far away" "you'll soon be leaving" "many a time by night and by day" "your heart will be …grieving" "the stranger's land may be bright" …と、歌詞がよく聴きとれない。
これも「シューラルン」(Siúil, a Rún)と同じように、アイルランド語と英語が挟み込まれたマカロニック(macaronic)形式の唄で、アイルランド語の箇所がとくにわからない。
五十嵐正氏のライナーノーツを手がかりに、少し調べてみたら、これはライナーノーツにも書いてあったが、アイルランドはゴールウェイ出身のドロレス・ケーン (Doroles Keane)の叔母にあたる シャン・ノース(伝統的な歌唱スタイルの)歌手の リタ・ケーン(Rita Keane)と サラ・ケーン(Sarah Keane)による"A Stór Mo Chroí"*1ということがわかった。また、原題がわかったので、歌詞も検索することができた。house は homeと歌っているように聞こえるし、bright は brighter に聞こえるけれど、検索した歌詞は以下のとおり*2
A Stór Mo Chroí (Treasure of my heart)
A Stor Mo Chroi, when you're far away
From the house that you'll soon be leaving
Sure it's many a time by night and by day
That your heart will be sorely grieving
For the stranger's land may be bright and fair
And rich in all treasures golden
ライナーノーツには五十嵐氏による訳もあるが、以下拙訳。
(拙訳)
かえがたい私の宝
かえがたい私の宝、あなたが故郷を離れて遠くにいるとき
もうすぐ行ってしまうのね
きっと夜も昼も何度も
あなたの心は深く悲しむことでしょう
見知らぬ地は明るく美しいものかもしれないけれど
黄金の宝が豊富にあるかもしれないけれど
これはよくあることなのだが、部屋のCD棚を見たら、"A Stór Mo Chroí" を収録しているアルバムを2枚見つけた。一枚は、The Chieftans "Tears of Stone"(1999)。
もう一枚は、Maura O'Connell の ”Wandering Home” (1997)。
"A Stór Mo Chroí" という唄そのものについては、たとえば、以下参照。
The Meaning Behind The Song: A Stór Mo Chroi by Maura O'Connell - Beat Crave
これによると、"A Stór Mo Chroí" は、18世紀にさかのぼることのできるアイルランドはクレア(県)で書かれたトラディショナル。困難な状況から仕方なく別れ別れになり、戻ってくるよと約束する真実の愛の唄ということだ。本来、母子の唄ではないようだが、母子間の愛の唄としても、通用する気もする。
もちろん、アイルランドからアメリカへという文脈に沿ったオープニングとなっているのだが、まだアメリカは登場しない。イントロの導入としては、愛するものとの別離を伝えるのみだ。