Bruce Springsteenの新譜''Western Stars''(2019)


今年の秋で70歳になるBruce Springsteenが、新譜''Western Stars''を出した。
Bruce Springsteenといえば、アルバム''Born to Run,'' ''River,'' ''Born in the USA''など、The E Street Bandとの演奏のアルバムを聞いてきた。
新作は''Western Stars''。western starsにはいくつかの意味が表現されているのだろう。
今回の演奏はThe E Street Bandではない。英語で書かれたいくつかのアルバムレヴューを読むと、ジュークボックスでかかるポップスやジミーウェッブ(Jimmy Webb )やグレン・キャンベル(Glen Campbell)などのアレンジを思い起こさせると書いているものが多い。いわゆるrock music を期待して本作を購入するならばがっかりするかもしれない。でも俺は今回の抑制された丁寧な音楽づくりも結構気に入っている。映画音楽風という点で芸風は違うがRandy Newmanを思い出させてくれるほどの表現力だ。音楽性はどうであってもBruce Springsteenのヴォーカルは昔から変わらないように思える。むしろ円熟さを増している。
アルバムのカバーを飾る絵や写真はアメリカ合州国の西部のイメージ。小冊子の歌詞についた写真を初めて見たときはジャズのSonny Rollinsのアルバム''Way Out West ''(1957)の表紙を思い出した。
ベトナム戦争に疲れた退役者やかつてジョン・ウェインといっしょに仕事をした酒飲みの俳優、治療のため足に金属を入れたスタントマンなど、アメリカ合州国の西部を背景にして、映画に出てくるような主人公がいろいろ登場してくるが、それぞれ、たとえば'Drive Fast (The Stuntman)'で歌われているように、能天気ではないし明るくもないのだが、傷つき、あるいは疲れはて、それでも希望を見いだし生まれ変わろうとする人間が描かれているように思える。アルバムのカバーに描かれた野生の馬は、'Chasin' Wild Horses'を表現したものだろう。'Chasin' Wild Horses'では、野生の馬をヘリで追い詰めるthe BLM(土地管理局)*1で働く者の気持ちが描かれている。*2
Sundown、Sunshineと、天候のイメジャリーが多用され、アルバムは寂れたモーテルの唄で終わる。
半年だが俺は'Frisco(サンフランシスコ)に住んだこともあるしモーテルに泊まりながらレンタカーで西部を周遊したこともあるから、ツーソン(Tucson)*3、ヒッチハイカーや町から町へ放浪する者、人生に疲れたベトナム戦争帰りの退役者がサンフランシスコを離れツーソン列車でやってくる恋人を待つ者、カフェ(San Bernardino line)*4ナッシュビル(Nashville)、モーテル、バーボンウィスキーのジャックダニエルなんて聞くと、感傷や感慨に耽ってしまう。
なかなか味わい深いアルバムだ。

Hitch Hikin’
The Wayfarer
Tuson Train
Western Stars
Sleepy Joe’s Cafe
Drive Fast (The Stuntman)
Chasin’ Wild Horses
Sundown
Somewhere North of Nashville
Stones
There Goes My Miracle
Hello Sunshine
Moonlight Motel