「和牛は下落、レタスも不安 外国人去り「農業つぶれる」 新型コロナウイルス 」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年4月19日 20時00分)から。

 新型コロナウイルスの感染拡大が農業にも深刻な影響を及ぼしている。インバウンド(訪日外国人)の減少などで和牛の取引価格が急落し、赤字に転落する畜産農家も。農業を支える海外からの技能実習生が入国できなくなったことで、まもなく収穫を控える野菜の生産者らも不安を募らせている。(山中由睦)


 松阪牛、神戸牛と並ぶ「三大和牛」とされる滋賀県近江牛。鈴木睦雄さん(65)は、琵琶湖畔近くの牛舎(同県近江八幡市)で480頭を飼育している。繁殖させて、30カ月以上育てた500キロ近い牛は競りにかけられ、毎月5~6頭が出荷されている。
 ここ数年は東京、大阪の飲食店を中心にインバウンドの需要が堅調で、競りの価格は平均で1キロ2500円、高い時は1キロ3千円以上になることもあった。
 だが、国内で新型コロナウイルスの感染が広がり、海外からの観光客が激減し、状況は一変した。価格は1キロ2千円を切り、最近は1500円程度になることもある。減収は月100万円以上に達する。鈴木さんは「BSE牛海綿状脳症)の時より厳しい状態」と嘆く。

 東京食肉市場の3月の和牛(去勢・A4ランク)の加重平均価格は、昨年3月は1キロ2476円だったが、今年3月は同1857円まで下落した。
 影響は、繁殖させた畜産農家から子牛を買い付け、大きく育てる「肥育農家」にも及ぶ。10年ほど前まで子牛は1頭40万~50万円程度だったが、繁殖農家の減少で最近は80万円程度まで高騰。えさ代も入れると、出荷までのコストは1頭120万円ほどかかる。だが、感染拡大の影響で、出荷時の価格が1キロ2千円を割ると、1頭500キロの牛は100万円に満たない。
 鈴木さんは繁殖も肥育もするが、周辺の近江牛畜産農家は大半が肥育農家だ。販売価格が生産費を下回った時に補塡(ほてん)される国の制度はあるが、補塡は全額ではなく、入金まで数カ月かかる。「多くの畜産農家が赤字に陥っている。こんな状態が続けばみんな廃業する」と危機感を強める。


 政府は、収入が落ち込む畜産農家を支援するため、肉質や肥料の分析など一定の条件を満たせば、出荷頭数に応じて最大1頭5万円を補助することにした。学校給食で牛肉を使うなど消費を促し、価格の低下も抑える計画だ。
 ただ、市内で140頭を育てる山形満さん(50)は「感染拡大が落ち着いても、経済が回復するまで消費者はぜいたく品を買わない。低迷は長期化する」とみる。「目の前の対策だけでは不十分。息の長い支援を考えてもらいたい」


技能実習生1700人も入国のめど立たず
 全国農業協同組合中央会JA全中)は先月6日、新型コロナウイルスの感染拡大が与えた農業への影響をまとめた。直売所や観光農園の集客減に加え、田植えに必要な水をひくポンプの部品や飼料といった生産農家の資機材の確保でも、中国からの輸入が滞って影響が出ている。
 とりわけ心配されているのが、生産農家のマンパワーを支える海外からの技能実習生の受け入れだ。農林水産省によると、農業分野で働く技能実習生は約3万2千人(2019年)。ベトナムや中国からの実習生が大半で、収穫に人手がかかる野菜、果樹の農場や畜産、酪農を中心に働いている。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、政府は中国や東南アジアからの入国を制限。農水省によると、4月1日時点で、来日するはずだった中国からの約1200人、ベトナムからの約200人など計約1700人の技能実習生の入国のめどが立っていないという。


 レタスやキャベツなど高原野菜の栽培が盛んな群馬県。JA群馬中央会によると、5月下旬から収穫が始まる。だが、同会が把握しているだけでも、嬬恋(つまごい)村で約100人、沼田市で約110人の技能実習生が来日できていないという。
 同会の担当者は「このままでは人手が足りず、農家も不安に感じている。近くの農業大学校や農業高校に協力を呼びかけて、何とか人を確保することも検討している」と打ち明ける。


「家庭だけの消費には限界がある」
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、高級な果物や海産物にも及ぶ。大阪市中央卸売市場の市況(先月31日)を見ると、メロン(静岡県産)は前年3月の平均価格に比べて44%、イチゴ(福岡県産)は17%それぞれ下がった。
 農林水産省園芸作物課の担当者は「飲食店や旅館などで使われる高級食材の下落が目立つ」と分析する。家庭で消費される野菜の食材は下がっておらず、「外出自粛で外食の需要が落ち込んでいるのが下落の要因」と話す。
 伊勢エビやアワビなどの高級海産物も下落が続く。大阪市中央卸売市場の水産の卸売業者は「肉も魚も果実も、高級食材はインバウンドの消費が支えてきた。その分の需要が一気になくなった」とみる。緊急事態宣言の対象拡大で不安はさらに募る。「家庭だけでは消費に限界がある。このまま外出自粛がいつまでも続けば、生産者は間違いなくつぶれてしまう」