「「中絶か強制帰国、どちらか選べ」妊娠の実習生は逃げた」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年12月1日19時03分)から。

 外国人の技能実習生が妊娠し、強制帰国や中絶を迫られる例が相次いでいる。受け入れ機関側から「恋愛禁止」や「妊娠したら罰金」と宣告されるケースもあり、専門家は「人権上問題だ」と指摘している。

 「妊娠2カ月なんです」。首都圏の人権団体のシェルターに保護された技能実習生のベトナム人女性(22)は静かに語り始めた。西日本の製紙工場で実習するために来日し、1カ月の事前研修を終えた矢先に妊娠が分かった。

 「中絶するか、ベトナムに強制帰国かのどちらかを選べ」。研修施設の担当者に迫られ、中絶の薬を与えるとも言われた。

 「子供を産みたい。でも日本で働き借金を返したい」と思いつめ、逃げ出した。ベトナム北部の貧しい地域の出身。日本に来たのは「病気の母の治療費で多額の借金があったから」。渡航費の約100万円は祖母が親戚らから借りた。

 来日前に関係を持ったベトナム人男性との子だったが、相手は「自分の子ではない」と否定。女性はカトリック川口教会のベトナム出身のシスター、マリア・レ・ティ・ランさん(55)を頼った。SNSで相談すると、逃げる手はずを全統一労働組合(東京都台東区)と整えてくれた。

 マリアさんの元にはベトナム人女性からひっきりなしに同様の相談の電話やメールがある。先日も「自殺したい」と32歳の実習生の女性から連絡があった。妊娠し、やはり実習先から帰国を迫られ逃げたという。

 西日本のある研修施設の規則には「異性との恋愛行為は一切禁止」「外出は2人以上の行動とし、単独行動はこれを一切禁止する」とあり、実習生に署名させている。「男性と女性はお互いの部屋を行き来しないこと」とも書かれている。研修施設での順守事項だが「企業実習に於(お)いてもほぼ同様の規則となるので今から三年間は気を緩めず厳守すること」とある。

 施設の元担当者は「会社は実習生を効率よく働かせたい。妊娠したら生産能力が落ちる。実習生に産休をとらせる会社など聞いたことがない」と理由を話す。

 また、研修の教職員に配られた「トラブル集&対応策テキスト」には、妊娠した場合?出産希望:強制帰国+ペナルティーを科す?日本での研修を継続希望:一時帰国し処置をした後再入国――とされ、チケット代は自弁で罰金も科す、とあった。元担当者によると、出国前も「意識改革」と題した研修などで妊娠は禁止と指導しているという。

 日本で亡くなったベトナム人実習生や留学生らを弔っている東京都港区の寺院「日新窟」には、2012年〜今年7月末で101件分の死亡記録があるが、24件分は中絶や死産による赤ちゃんのものだ。尼僧ティック・タム・チーさん(40)は「悩んだ末に中絶して、精神的に病んでしまう女性も多い」と話す。
政府「帰国強制は違法」

 「妊娠、出産、結婚を理由に監理団体や実習実施機関が技能実習生の意思に反し、帰国を強制する行為は違法で、認められるものではない」。実習生の問題が議論された2016年11月の参院法務委員会で、政府はこう答弁している。雇用機会均等法も、事業主は女性労働者に、妊娠や出産を理由に解雇などをしてはいけないと定めている。

 13年には、中国人技能実習生が妊娠を理由に強制帰国させられそうになり流産したとして富山市の会社側を訴えた裁判で、女性側勝訴の判決が出た。

 だが、妊娠を理由とした技能実習生の強制帰国や中絶例は後を絶たない。

 実習生の実情に詳しい指宿昭一弁護士は「恋愛や妊娠を禁止することは明らかな人権侵害で許されない」と話す。現在参院で審議中の出入国管理法改正案でも、外国人の新たな在留資格「特定技能1号」は技能実習生と同様、家族帯同が認められていない。指宿氏は「労働者をモノとしか見ていないからだ」と指摘している。(平山亜理)